広告産業全体で目指すべきエコシステム
有園:この辺りで架け橋の話に戻ると、デジタルを使った本質的なマーケティングを、AaaSに取り込んでいくということでしょうか?
安藤:そうですね、ただデジタルはデジタルで大事ですが、僕は総合広告会社が長年築き上げてきた技術やナレッジを大きく評価しています。広告会社にはクライアントのことを徹底的に考え抜く文化や、ノウハウ、人材がある。ただ、それだけにとどまってしまうと、戦国最強と言われた武田信玄が育てた騎馬隊が織田信長の鉄砲隊に一瞬で負けたように、デジタルに淘汰されていきます。一人ひとりはよく訓練され、とてつもなく強かった武田軍が、雑兵を集めただけと貶められた織田軍に新しい武器と戦法で簡単に負ける。そういうことって、普通に起こりますよね。
有園:ありますね。
安藤:何が言いたいかと言うと、架橋するということは、広告会社のノウハウと人材、深く考える力と、デジタルのダイナミズムの環境をどうつなぐかということ。これは広告業界に生きている人たち全員が考えなければならない課題だと思います。
Advertising as a Serviceという大きい言葉を使ったのも、広告産業全体で向かっていくべき方向だと思っているからです。さらに言えばメディア、特にテレビもそのエコシステムで考えていくべきだと思うので、放送局との共創コミュニティである「TV AaaS Lab」を立ち上げて、今多くの放送局に参加してもらっているわけです。
有園:なるほど。プランニング、バイイング、モニタリングと、すべてにおいてマスとデジタルを組み合わせてデータを整えられるようになってきたということですよね。ただ、テレビは短期的に効果を測ると「あまり効果がない」という結論になる気がしていて。その辺りはどうお考えですか。
安藤:いや、僕は「効果」という概念をきちんと捉えることができれば、テレビ広告はもっと高く売れていいと思っています。放送局の人からよく言われるのは「効果が見えるといい枠は売れるけど悪い枠は売れない。結局トータルで損しないか?」という疑問なんです。しかし僕はトータルでは放送局にとってプラスになると見て、むしろテレビ広告の価値を高めていかなければと思います。

広告は価値創造に関わる中心の産業
有園:架け橋がつながり、マス広告にもデジタル広告の運用のような環境が生まれて価値共創の土台ができると、広告の仕事の仕方も大きく変わりますね。
一方で、データを検証しながらトライアル&エラーを繰り返していくアプローチを、テレビや新聞といったメディアにも取り入れていくほうがよい、という論にも聞こえますが……。
安藤:それぞれのメディアの特性や価値にあわせて考えていくべきだと思っています。即時性だけがメディアの強みではないですよね。予約型と運用型という言い方をすることもありますが、予約型メディアならではの価値、ここにしかない、あるいはいつもここにあるという役割も、僕はもちろん残るし大きいと考えています。たとえば、米国のスーパーボウルに出す長尺のCMの価値もその一つですね。新聞や雑誌でもそういう役割は大きいと思います。
有園:そうですね。
安藤:なので、全部が運用型広告になる必要はない。看板自体は変わらなくても「人が看板をどう捉えるか」は、周りの環境によって変化しますよね。環境の変化を捉えながら、広告の価値をどう作っていくのかを考えるべきです。
有園:確かに。特に新聞広告なんかは変わらない役割をどう果たすのかが重要かもしれないですね。
安藤:今日一番言いたかったのは、まず広告は価値創造に関わる中心の産業であるということ。その「価値」は、工場や販売、もちろん宣伝だけでできるわけではありません。価値は生活者と企業のコミュニケーションの中に生まれるんです。コミュニケーションを扱うビジネスこそが、価値創造の中心の産業であり、それを僕たちは「広告」という言葉で呼んでいる。
有園:コミュニケーション自体が価値創造なんですよね。こうやって安藤さんと僕が話しているここに、価値が生まれている。つまり広告がコミュニケーションを扱う産業である時点で、価値創造の産業であるという。
安藤:そうなんです。改めて広告産業で働いている人に、自分たちの仕事はそういう仕事なんだと捉えてもらい、一緒にアップデートしていきたいですね。
