「総合広告会社は“広告のプロ集団”ではない」?、その本質は
有園:まずは安藤さんに、AaaS(Advertising as a Service)の話を伺いたいんです。コンセプトが出てきたとき、「素晴らしいな」と思ったんですよ。
僕は2016年に、総合広告会社に意見を求められた際に、「広告のプロ集団ではない」という指摘をしました。というのも、広告会社は広告営業のプロ集団であって、広告効果のプロではない。マーケティングコンサルのような広告効果のプロがいない限り、広告会社はいずれ立ち行かなくなる可能性があると見ていました。AaaSのプレスリリースを読んだとき、まさにそこにフォーカスを当てていると思ったんですよね。
安藤:すごく本質的な話だと思います。広告会社はずっと以前から「世の中を動かそう」「人にインパクトを与えよう」と真剣に向き合っている。その点ではプロだと思うんです。では、日本中の人を動かしたのに「効果じゃない」とは、一体どういう意味か。有園さんが「広告効果のプロがいない」とおっしゃる時に、目線にあるのは、デジタル広告でいう「効果」の考え方ですよね。
有園:そうですね。
安藤:つまり「効果」という言葉の持つ意味が従来の広告とデジタルの世界で異なる、というのが正確な見立てだと僕は思います。デジタルからすれば、マス広告の効果とされているものは、リアルタイムではないし態度変容の過程も数字で見えないので効果とは言えないというわけです。
大体の広告の効果に関する議論はこのあたりで終わっています。しかし僕は、企業が「これをやればこのキャンペーンは成功」というシナリオがなんとなく実現できたその先に、本当の価値創造があると考えるべきだと思っていて、デジタルの人たちはそれを暗黙に知ってるんじゃないかと見ているんです。
有園:もう少し掘り下げてもよいですか?
安藤:つまり、最初に「こうあるべき」と思ったものは仮説に過ぎない。その後、市場で何が起こっているかをつぶさに見ながら、世の中に受け入れられるものを突き詰めていくのがデジタルの仕事の本質だと思うんですよね。その過程に「効果」の数字を使っている、と見るべきだと。メッセージにしろターゲットにしろ、「こういう人にはこれを言うべき」「次はこういうことが起こるんじゃないか」といった仮説を織り込んで、常に更新していくことがデジタルにとっては当たり前で、それを含んで「運用」と呼ぶわけです。
日本市場全体が、マーケティングを信じていない
安藤:さて、このように総合広告会社とデジタル広告業界のギャップを整理しましたが、我々はこの溝を架橋したい思い、AaaSを作ったわけです。架け橋の鍵となるのは、マーケティングの考え方。マーケティングとは本来、市場創造であり、価値共創ですよね。
有園:そうですね。
安藤:しかし、広告会社やメーカーの多くは、商品の価値は市場に出す前に決まっていて、マーケティングとはそれを世の中に伝えることだと思っているんです。
有園:たとえば飲料の新商品には「どんな茶葉で〜」「◯◯仕込みの〜」と書いてありますよね。
安藤:そう。あらかじめ企業側で価値を決めて、生活者を説得するのがマーケティングだと思っているわけです。ですが、市場における価値創造は本来的にはそうではないはずです。
このように思ってしまう原因は、日本のマーケット全体がマーケティングを信じていないからでしょう。多くの日本企業は、R&Dなどの商品力と販売の力の二輪で成長してきました。だから、研究所から生まれた良い商品を販売チャネルに載せればよい。それを後押ししてくれる「宣伝」がマーケティングだと思ってしまう。
それに対してデジタルは、マーケティングの本質である価値共創を体感できる環境が整っています。マーケットの動きをリアルタイムで見ながら、本当の価値は何かを考え続けることができるんです。