一人から徹底的に好かれるブランドを作る ヤッホーブルーイング流模倣困難なブランディング
1997年創業のヤッホーブルーイングは、長野に本拠地を構えるクラフトビールメーカーだ。代表作の「よなよなエール」をはじめ、ユニークなネーミングのクラフトビール各種を展開する。
同社のブランド戦略ユニットであるよなよな未来課でエキスパートを務める本田氏が登壇し、ブランド開発の考え方とプロセスを詳細に説明した。
ヤッホーブルーイングのブランド開発は、「100人に1人に狭く深く刺さるブランドを開発する」という方針で「100人になんとなく好かれるよりも、1人から徹底して強い共感を得ることを日々考えている」と本田氏は語る。
その考えの根底には、競争戦略などを専門とするマイケル・ポーター氏が提唱した理論があるという。ポーター氏は競争戦略において「競争上必要なトレードオフをともなう一連の活動を選び、一つの戦略的目標に向かって活動間のフィット感を生み出すこと」が重要だと示している。
これはつまり、模倣困難なブランディングを行っていくために、「戦略的に“何をやらないか”を選択することで独自のポジションを築き、真似の防止を目指すこと」だという。
その基本戦略を落としこんだ、三つの重要な活動を紹介した。
- 独自の組織文化の浸透
- 熱量の高いファンを生むコミュニケーション
- 模倣困難なブランディング
それぞれに対してトレードオフをともなう選択をし、選択した要素が複雑に絡み合うことによって非常に模倣困難なブランディングになっていく、というのが基本の考え方。真似を躊躇するレベルで100人に1人に刺さるブランドを作ることを目指しているという。
そのためには、「徹底的にお客様の声に耳を傾ける必要がある。そうすると活動間のフィット感が生まれる」と本田氏は語る。模倣困難なブランディングのためには熱量の高いファンから意見を聞くことが重要だという。
コンセプトを課題解決型ではなく理想提示型へ
「一部の顧客から圧倒的に支持される強いブランドを作り、ファンを起点に顧客を増やす」というヤッホーブルーイングのブランド開発。本田氏はこの考え方を具現化した事例として、2022年8月に都内のセブン-イレブンで先行発売を開始した同社初の低アルコール飲料「正気のサタン」を紹介した。
「正気のサタン」は発売開始以来、想定の二倍のスピードで販売予定数を達成したヒット作だ。SNS上では3ヵ月で1万2,000件の口コミがあり、この3月には全国展開が決定。さらには世界で3番目の歴史を持つビール審査会「インターナショナル・ビアカップ2021」でカテゴリーチャンピオンも獲得しているという。同製品について本田氏は「クラフトブルワーが本気でつくったアルコール1%未満のクラフトビール」と紹介する。
では、この同製品において、どのように模倣困難なブランディングを展開していったのか。
まずは、大きな方針、製品のポジションの検討から始めたと本田氏は説明する。
従来のノンアル系飲料は飲めない時に飲むものという“マイナスをゼロに戻す”(=課題解決型)イメージだ。
一方、「正気のサタン」は、“ゼロからプラスにする”(=理想像提示型)ものであるという。「おいしいのに酔わない嗜好品“醸造系クラフトドリンク”」と銘打たれているのもこのためだ。
「性質的にはノンアルに近い新たなカテゴリーを作っていくことを念頭に置いて『醸造系クラフトドリンク』と呼んでいます」と本田氏は説明する。
同社ではこのように大きな方針を決めた後、調査により複層的にインサイトを導き出していくという。