コンセプト開発でも大事なのは票の多さではなく100人に1人からの深い共感
出てきた四つのコンセプト案は前述の通り、コンセプトシートにまとめる。シートには製品特徴、飲用シーン、製品情報を記入するという。さらにこれを使って行うのが「受容性テスト」だ。一般のアンケート協力者にこのコンセプトシートを提示し、六つの項目について五段階で評価してもらったという。
本田氏はこの回答の見方にポイントがあるという。
「アンケート回答者全体とターゲット属性の回答を比較することが重要です。100人に1人の深い共感を重要視しています。だから、単純に票が多いところではなく、差分をしっかり見ていきます」
受容性テストの結果、回答者全体では「低アルクラフト(N)」のコンセプトが魅力度・購入意向共にトップだった。しかし、ターゲット属性に絞ると、魅力度は「低アルクラフト(N)」が一位、購買意向から見ると、「リフレッシュ(R)」がトップ、「食事時間(M)」が二位だ。開発チームでは、このように差が見えたところを、インサイトの立ち上がりとして着目。さらにフリーコメントなどのテキストから分析することで、具体的なシーンとその感情を捉えたという。
その結果、「低アルクラフト(N)」には多くの票が集まったものの、インサイトが軽く、強いニーズは感じられていないことがわかった。一方で、「リフレッシュ(R)」・「食事を彩る(M)」の共感度は高く、具体的なシーンと強いインサイトが見て取れることが判明した。
これらを踏まえたのが、「食事にこだわるワーキング家事プレーヤー」だ。このターゲット像があきらめていたことを叶えるような、潜在的かつ強く共感できる感情を探した。そうして「酔わずに心を満たせる」がコンセプトになり、これが選ばれる理由になった。
名前が決まるまでに930もの没案 一部から超高評価された「正気のサタン」
こうした経緯を経て最後に設定されたのが、ネーミングとデザイン要件だ。
ここでのポイントは、「平均的に高評価より一部に超高評価」「好意度より意外性を重視」「ヤッホーらしい9つのデザイン要素」の三つだ。
ネーミングは、アイデアをできる限り多く出し、その名前をいくつかの軸で評価してもらうアンケートを実施、これを繰り返すことで決定したという。
「正気のサタン」に決定するまでには930もの没案があり、上位の候補でアンケートを何度も繰り返したという。軍配が上がった「正気のサタン」には、“悪魔的”“やみつき”の「サタン」と“正常な判断ができる状態”の「正気」の意図が含まれている。
こうして完成した「正気のサタン」は、ターゲット選定・インサイト導出に4ヵ月、コンセプト開発に3ヵ月、ネーミングに2ヵ月、デザインに3ヵ月がかけられて完成した。本田氏が所属するブランド戦略ユニット“よなよな未来課”から4人、ネーミングとデザインはクリエイティブメンバー10人が進めたという。
「この進め方をしていると『そんな製品を市場が本当に求めているの?』といった声が聞こえてきます。しかし、そもそも私たちは新しい価値観を作ることを目指しており、今存在しないものを消費者が求めているかは判断できないと考えています。我々は賛否両論大歓迎で特に強烈な賛成を探しに行きます」
最後に本田氏は「狭く深く刺さるブランド開発こそがファンを生む第一歩。まずは今いる顧客の声を聞くことから始めてみてはいかがでしょうか」と話し、講演を締めくくった。