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『MarkeZine』(雑誌)

第106号(2024年10月号)
特集「令和時代のシニアマーケティング」

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変革の鍵は「どれだけ顧客を理解しようとするか」HubSpotに聞く、中小企業のデジタル活用のヒント

 MarkeZine編集部刊行『マーケティング最新動向調査 2023』収録のアンケート調査によると、企業の売上規模によってマーケティングのデジタル化における取り組みの優先順位が異なることがわかった。回答者の約半数を占める100億円未満の企業では「ツールへの投資」が最も多い。そこで、今回、同調査でMA導入率が売上「1億円未満規模」で36.8%、「1億円以上10億円未満規模」で24.5%と高いシェアを持つHubSpot社にてマーケティングディレクターを努め、自身もスタートアップでのマーケティングに従事していた経験を持つ伊佐裕也氏に、中小企業のデジタル活用とツール投資における傾向と障壁の突破方法について伺った。

担当領域が多く、忙しい中小企業のマーケター

――今回は中小企業のツール活用をテーマにお話を伺います。まず伊佐さんのご経歴を伺えますか?

伊佐氏:私はHubSpot入社前に、2社のスタートアップ企業を経験してきました。1社目はクラウド会計ソフトのfreee。従業員規模が50~60名の頃から、300~350名規模になるまで在籍していました。2社目はドローンや倉庫ロボットなどの産業用ロボットを主に扱うクラウドロボティクスのRapyuta Roboticsです。少人数の会社では業務が膨大です。どう優先順位を付けて取り組むか、私自身もかなり悩みました。その経験は今、HubSpotでの社外向けのコミュニケーション全般に活きていますね。

HubSpot Japan シニア マーケティング ディレクター 伊佐裕也氏
HubSpot Japan シニア マーケティング ディレクター 伊佐裕也氏:DELL、SONY、Googleなどのグローバル企業でマーケティング業務に従事。GoogleではSMBマーケティングチームを統括し、中小企業向け事業におけるインサイドセールス・マーケティング体制の構築を行う。その後クラウド会計ソフトのfreee、クラウドロボティクスのRapyuta Roboticsにて日本発のBtoBスタートアップ企業でのマーケティングチームを統括。2018年より現職。オックスフォード大学(英)政治経済学部学士号、INSEAD経営大学院MBA取得。

――MarkeZineの調査から、HubSpot社は中小規模から選ばれている傾向が見られました。同規模企業でのデータ活用やMA導入について、相談を受けることも多いかと思います。現在、どのような課題を持っている企業が多いですか?

伊佐氏:ご相談内容は多岐にわたりますが、特に人に関するものが多いですね。お悩みにはいくつかのレイヤーがあります。

 1つ目は、ツールを使用した効率化です。我々の調査によると、中小企業で専任のマーケティング担当者がいる企業は全体の19.2%。中小企業においては、そもそも「マーケティング担当」という役職がないことも多いのです。マーケティングをしつつ営業企画や営業、オペレーションなどもされているのですね。そのような方々が、ツールを導入して効率化し、「より多くの仕事をこなせるようになりたい」と望まれています。

 2つ目は、顧客データの属人化です。営業担当個人が様々なデータを持ち、会社としてはいまだに所在を把握できていない状態です。顧客情報管理に関する我々の調査でも、3割程度の企業で「不明」と回答されています。ツールを導入することでそのようなデータを集約し、組織の資産として活用できるようにしたいというご相談です。

 3つ目は、ノウハウを持つ人材の不足です。たとえばウェビナーやイベント登壇などを実施して見込み客を獲得しても、電話を1回かけて終わってしまう状況などです。データ活用のノウハウがないので、ツールで補いながら解決したいというご要望があります。

「変えないといけない」が何から手を付けていいかわからない

――DXが叫ばれ、ビジネスの変化も起きています。この数年でご相談の内容は変化していますか?

伊佐氏:中小企業の方々は特に今、「何かを変えないと」という熱い思いをお持ちですね。しかし、内容は漠然としており実際の進め方に困っている方が多い印象です。

 というのも、昨今、世の中は大きく変化しており、今までのノウハウや販売法が必ずしも通用するとは限らず、頭打ち感を持つ方々が多いのです。新規顧客開拓の必要性を感じて悩み、そこに何かしらデジタルの力を使わねばと思ってらっしゃいます。

 今後の成長のために新規事業を立ち上げ、拡大を考える方々もいます。しかし、新しい事業=今まで馴染みのない領域への進出なので、新規のお客様へのリーチ方法、関係性の作り方、提案の仕方がわからないという悩みも見られます。

――ある種の危機感はあっても具体策が見つからない。あるいは、戦略はあっても戦術がわからない状況なのですね。実際に、変化できた例はあるのでしょうか?

伊佐氏:NRIセキュア様の場合、元々は対面でセキュリティコンサルティングをされていました。従来の方法では、地方の企業に対してのサービス提供が難しいことが課題で、新規展開を検討されていました。実際に、Web上で質問に答えると自社セキュリティの強度を確認できる完全オンライン版サービス「Secure SketCH(セキュアスケッチ)」も開発が進んでいました。問題は、顧客をどう作っていくかです。マーケティング経験ゼロの、元コンサルタントやセキュリティのプロの方々がアサインされていたのです。そこで、HubSpotでは新規顧客との関係作りを実現するためのツール活用を提案し、現在は広く事業を展開されています。

本調査の全結果とクロス集計の結果に加え、 「マーケティングをめぐる近年の動向の概観」や「主要マーケティングプラットフォーマーの動向」をまとめた『マーケティング最新動向調査 2023』は、翔泳社のECサイト「SEshop」でのみ販売しております。

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『マーケティング最新動向調査 2023』の詳細をみる

「あなたの顧客はどう変わっているか」から考える

――実際には、どれくらいの粒度のご相談がくるのですか。

伊佐氏:粒度はまちまちですね。お声としては「とにかく上司にデジタル化を命じられた」や「今までの見込み客、リードとのコンタクトを作ることはできたが、そこから先がよくわからない」などがあります。

 HubSpotはCRMツールやMAツールを提供していますが、ツール導入が目的ではいけないと考えています。ですから「御社が実現したいことは何ですか」と、ゴールを明確にする質問をします。まずゴール設定をして、そこに達するためにはどのようなツールや行動が必要か、逆算的に考えることが大切です。最終的には、顧客やエンドユーザーがその企業様とのコミュニケーションに価値を感じることを目指しています。そこが企業の売上につながる一番重要なところだからです。

 良例として、営業電話を中心にビジネスをしていた企業様で、コロナ禍をきっかけに「Webサイトへのトラフィックが増えている」と気づいたケースがあります。そこで、フォームの設置やチャットツールの導入によって、Webからの問い合わせを可能にしたことで成果につなげています。

 「あなたの顧客が何を求めていて、顧客はどのように変わっていて、それに対してあなたの会社は、何を変えていくか」を考えることが非常に重要だという事例ですね。

「目的の明確化」に伴走してくれるパートナー選びを

――ツールを導入する企業側が事業課題に向き合い、何を変えるべきか具体的に考える視点が必要なのですね。

伊佐氏:そうですね。やはり事業課題や今後すべきことを一番ご存知なのは、業界に詳しい担当者さんです。我々が意識していることは、担当の方がすべきことに対してツールをどう使うかのイメージを持っていただけるコンサルティングです。

 企業様に「何をしたいか」というイメージや目的がないと、テクノロジーの話だけを聞いても時間が無駄になります。ベンダー探しの無限ループに入ってしまうケースもあるでしょう。

何をしたいかゴールを決める

 そういう意味では、「御社の課題や実現したいことを伺うまでは売らない」くらいの気持ちで目的意識の必要性を説き、しっかりと課題に向き合って二人三脚で進んでくれるベンダー探しが重要かと思います。

 また、ツール探しの話になりますが、「使いやすさ」も重要です。導入後には、ご担当者様自身ですべきこともたくさんありますし、営業やサービスサポートといった別部署の方に作業をお願いする必要もあります。多くの人が使うからこそ、重要なのは使いやすさです。やりたいことに合ったツールなのかを吟味した上で、実際に触ってみて「直感的で使いやすい」と思えるツールをしっかり選ぶ。そうすれば、「導入はしたが結局使われない」という状況も避けられるでしょう。

本調査の全結果とクロス集計の結果に加え、 「マーケティングをめぐる近年の動向の概観」や「主要マーケティングプラットフォーマーの動向」をまとめた『マーケティング最新動向調査 2023』は、翔泳社のECサイト「SEshop」でのみ販売しております。

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導入がうまく進む企業・進まない企業の差とは

――実際に導入がうまく進む企業と進まない企業は、目的意識以外でさらに具体的にどこが違うのでしょうか。

伊佐氏:それはクライアント様自身が、自社の製品やサービスを使う「ユーザーや顧客をどれだけ深く理解しているか」に尽きます。具体的に「誰に対して何を伝えたいのか」の解像度が高ければ高いほど、我々もサポートしやすいですね。

 まずはユーザーのペルソナが明確であること。そして、認知拡大か、認知から比較検討まで持ってきたいのかといったフェーズの確認です。そこが明確ですと「認知を上げるための施策」や「比較検討のフェーズに持って行く施策」という提案ができます。

顧客のことをどれだけ知れるか

――中小企業だからこそ、顧客理解が深いという強みを持っている企業様も多そうです。

伊佐氏:そうですね。マーケターと顧客との距離や、部署間の距離が近いのは中小企業の強みです。「顧客をもっと知りたい」というマインドセットで業務に取り組んでいると、ご自身、会社、顧客のすべてにとっていい関係が作れると思います。

 また、部門連携のしやすさも中小企業のメリットです。たとえばウェビナーの実施後に見込み客に営業がどのように対応したのか、反応はどうだったのかのフィードバックをもらいやすい環境にあると思います。このように顧客のことをきちんと理解すると、実際にツール導入もうまく進みます。

 HubSpotの場合も日本法人はグローバルと比較すると組織が小さいので、営業、カスタマーサクセス、サポートがお客様への価値提供について解像度高くイメージを共有し、各プロセスでのフォローが行いやすいと感じています。

 また、やることの多い中小企業の方々の「時間がない」は、ツールを導入するとある程度解決できます。効率化ができると「もっと顧客に時間を使おう」と考えられるようになる。良いループにつながると思います。

「あえていろいろ試してみる」気持ちも大切

――最後に、HubSpotではどのような支援をお考えか展望を伺えますか。

伊佐氏:企業規模を問わず役に立つツールを提供することを大前提としつつ、いかにUIを使いやすくできるかを考えています。その一環として2023年3月には、プライベートβでオープンAIの人工知能を活用したツール「ChatSpot」や「コンテンツアシスタント」を発表しました。ChatSpotはHubSpot製品の新しいUIの形です。たとえば「CRMにコンタクト数は何件あるの?」とか「ターゲットとなる業界のマーケティング部長をリスト化して」とチャットでリクエストするだけで、必要なデータを確認できるようになります。スキル不足が課題の企業様でも、簡単にデータ活用が可能になる画期的な取り組みです。

 ソフト面ではグローバル市場のトレンドや、日本における買い手・売り手の変化、AIのジネス活用を含めた考え方を発信することでお役に立ちたいと思います。ユーザー様同士、マーケターや営業の方々がお互いから学び合えるようなコミュニティ作りをしたり、無料のEラーニングコンテンツ「HubSpotアカデミー」の提供をしたりしています。2022年には、日本リスキリングコンソーシアムに参画しました。

 また、新しいテクノロジー出てきた時は、今まで頑張ってやってきたことが変わる怖さや使い方に不慣れなせいで「自分とはまだ関係ない」と思いがちです。しかし「あえていろいろ試してみる」というマインドセットがとても重要ではないでしょうか。

 スマートフォンやタブレットの操作性を最初に体験した時に感動した方は多いでしょう。ビジネスにおいても、今までになかったテクノロジーと上手に付き合うことができれば、利用する人の幅や用途が一気に広がります。これから新しいツールやAIの使い方が世に出てくるでしょう。トライアンドエラーは企業にも顧客にもいいことだと思います。ツールをどう使って世の中を変えるべきかを一緒に考えられるコミュニティをしっかり作っていきたいですね。

本調査の全結果とクロス集計の結果に加え、 「マーケティングをめぐる近年の動向の概観」や「主要マーケティングプラットフォーマーの動向」をまとめた『マーケティング最新動向調査 2023』は、翔泳社のECサイト「SEshop」でのみ販売しております。

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この記事の著者

那波 りよ(ナナミ リヨ)

フリーライター。塾講師・実務翻訳家・広告代理店勤務を経てフリーランスに。 取材・インタビュー記事を中心に関西で活動中。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2023/05/22 09:39 https://markezine.jp/article/detail/42085