マーケティングから人間性が失われた?
今回紹介する書籍は『マーケティングZEN』。著者は鎌倉マインドフルネス・ラボ 代表取締役の宍戸幹央氏と、クマベイス 代表取締役CEOの田中森士氏です。
宍戸氏は日本IBMを経て、教育サービス事業を展開するアルーに参画。その後、鎌倉マインドフルネス・ラボを創業し、禅の精神を企業経営や組織開発、人材育成に活かす研修を行っています。一方の田中氏は、産経新聞社で記者を経験後、2015年にマーケティングエージェンシーのクマベイスを創業。主にコンテンツマーケティングの分野から企業の成長を支援しています。
本書の第1章では、宍戸氏、田中氏が提唱するマーケティングZENの定義などをまとめています。第2章では、企業がマーケティングZENを実践する必要性を、時事性も絡めつつ説明。第3~7章では、マーケティングZEN実践の具体的なステップを解説しています。
本書の冒頭で、田中氏は「マーケティングから人間性が失われつつある」と指摘しています。
メールマガジンにブログ、プロモーションビデオ、広告。企業はあらゆるコンテンツを消費者に届けようと努力している。しかし、テクノロジーの発達にともない、味のあるコンテンツが減り、無機質なコンテンツが増えた。別の言い方をすると、ビジネスから人間性が失われつつあるのだ。(p.6)
マーケティングにおいて消費者や市場の分析は不可欠です。しかし、データで消費者を分析しすぎるあまり「消費者の顔が見えない状態に陥ってしまっている」と田中氏は指摘します。その結果、消費者は企業に対して不信感を募らせ、両者の関係性が希薄になってしまったのだというのです。
では、どのようにすればマーケティングに人間性を取り戻し、消費者との関係を修復できるのでしょうか。本書は、消費者との関係を再構築する手段として「マーケティングZEN」を提唱します。
実践を通じて顧客中心主義に回帰する
田中氏によると、マーケティングZENとは「これまでの成長ありきのマーケティング手法とは一線を画すもの」だそうです。名前に“ZEN”とある通り、仏教の禅の思想と重なる部分が多くあります。
そもそも禅とは何でしょうか。『禅宗小事典』によると、禅宗は「現実に生きていく中で釈尊の悟りを追体験し、今の自己自身の中に仏を見出すこと」を目指すそうですが「禅の教えは実践でしか伝えられないため、言葉で理解しようとすると困難を極める」と田中氏。そんな禅の思想をマーケティングへどのように落とし込めば良いのでしょうか。田中氏は、次の五つのステップで実践のヒントを示しています。
2.手放してビジネスモデルをスリムにする
3.ビジネスの適切なサイズを探す
4.マーケティング施策を絞る
5.顧客との関係性を整える
この五つのステップを踏むことでマーケティングZENが実践でき、コンテンツの無機質さを排除しながら企業が顧客中心主義に回帰できるというのです。
「自他非分離」の視点で無駄な施策を削ぎ落とす
マーケティングZENを実践するための五つのステップのうち、「4.マーケティング施策を絞る」について紹介します。マーケティング担当者が「あれもやりたい」「これもできる」と考えた末、手を広げすぎてしまうことはよくありますが、田中氏はこの姿勢について次のように警鐘を鳴らします。
「何でもできる」は今の時代生き残れない。「あれもできます。これもできます」では何の会社なのかが不明瞭となり、存在意義もぼやける。消費者からすると、「なんだかよくわからない会社」との印象になる。(p.101)
以上の理由から、田中氏は「無駄を削ぎ落とす」ことを提唱し、削ぎ落とすべき施策の代表例として「過剰な広告」を挙げます。過剰な広告施策を削ぎ落とし、自社の公式サイトやメルマガ、オフラインのイベント、ポッドキャストといったオウンドメディアの活用を推奨。なぜなら、企業が消費者との関係を修復するためにはパーパスドリブンな発信が重要であり、オウンドメディアは自社のパーパスを体現しやすいメディア形態だからです。
また、禅に存在する「自他非分離」という言葉を引用し、マーケティングZENでは「自社と顧客は同一の存在だ」と解釈します。つまり、担当者自身が「消費者のためになっていない」と感じる施策であれば、勇気を持ってその施策は中止するべきだというのです。
本書ではほかにも、顧客エンゲージメントなどをテーマに、マーケティングZENの実践法を解説。「複雑化するマーケティングの世界において、どのアプローチが成果につながるのか」と悩むマーケターの方は、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか?