第5回「心が動く消費調査」から、消費の好循環を読み解く
本連載の2回目では、消費者の持つ11の欲望をもとにインサイトを発掘する方法について解説しました。本稿では、2023年5月のゴールデンウィーク明けに実施した消費者調査の分析結果から、なぜ今【消費の好循環】が求められるのか、についてお話しさせていただきたいと思います。
読者のみなさんは、「センスの良い短パンを買ったら、次はおしゃれなサンダルが欲しくなった」というように、“ある買い物から付随して買い物意欲が高まる”といった経験をされたことはありませんか? あるいは、「何かしらを購入した後に自分でも理由はイマイチわからないけれど、まったく関係ないものが欲しくなった」など、理屈ではなかなか説明できない消費行動を経験した覚えがある方も多いのではないかと思います。
何かしらの消費をした後、さらに欲望が刺激されたり、違う欲望が表出してさらなる消費 へと向かわせる――こうした“循環的な消費行動”が世の中には存在しています。その循環的なメカニズムは、連載の1回目でご紹介した下の「欲望(Desire)行動モデル」にも内包されています。
私たち電通デザイアデザイン(以下、DDD)は、「“心が動く消費体験”が次の消費に繋がり、その消費は生活に潤いを与えるようなウェルビーイングな状態を生み出す原動力になる」という理論のもと【消費の好循環】に着目しています。
当然と言えば当然かもしれませんが、今回の定量調査(調査概要は末尾に記載)で、改めて消費の好循環の全体像が見えてきたので、ここから実際の分析結果をもとにご紹介していきたいと思います。
全体傾向:好循環消費が起きている割合は?
調査実施に先立ち、消費の好循環の定義づけとして、DDDでは以下のように類型化を試みました。
上記にない群として、心が動くような消費がなかったグループと、単発消費で終わったグループも存在していますが、DDDはその2グループに対しては「好循環ではなかった」という意味付けを行っています。好循環ではない消費も含めて、全体の構成を表したのが下の円グラフです。
まずは、「心が動く消費がなかった」人が15.7%存在していた点について。今回の調査時期はゴールデンウィーク後だったため、連休中であっても心が動く消費に巡り合わなかった人が一定数存在いたことになります。さらに言えば、今年のゴールデンウィーク前後は、ちょうどコロナウイルスが第5類に移行することが見込まれていた時で、旅行やレジャー系の需要は高まった時期でした。この15.7%の人々は、そういったアクティビティ消費に消費者の心が向かっていたタイミングでも、消費によって心が動くことがなかったグループであると言えます。
また、単発消費の21.5%は、好循環消費の一歩手前までいったグループで、心が動いたものの単発的な消費にしか至らなかった人たちです。
調査を実施する時の社会情勢や経済情勢、季節性など色々な影響を受けるため、15.7%、21.5%というこれらの数字が大きいか小さいかは一概には言えませんが、筆者の印象ではゴールデンウィーク直後という時期を考慮したとしても、おおよそ世の中的にはこれくらいのボリュームなのではないかと思います。
そして、残りの62.8%が「何らか心が動いて消費をした結果、次の消費に繋がる実感を持つに至った」グループになります。DDDは【消費の好循環】グループとしてこのグループに着目し、好循環が起きるメカニズムやその背景に潜むものを探求し続けているわけです。それでは、好循環グループを分解して詳しく見ていきましょう。