当事者の声を拾い反映し、徹底的にチューニングする
川合:日本ではユーザーのゲインや付加価値提供を重視した機能中心のもの作りが多い中で、御社では“ユーザーのペインに寄り添いながら、あらゆる顧客体験を良くしていく”という視点で開発されているのですね。
水村:仰るとおりです。最近では、お客様にアイマークレコーダーを付けていただき、どのようにATMをご覧になっているか、どんな視線誘導が適正かを検証し、操作性の向上を図る実験をしました。これによってモノの取り忘れの削減にもつながっています。また、車椅子の方や目が不自由な方、外国人の方に触っていただいて、ご不便がないかという検証も、開発開始時・開発中・仕上げ付近など、全3~4回行い、徹底的にチューニングをしています。
川合:中長期的なスパンで、マイノリティの方と一緒に継続的な取り組みをされているのは、まさしくインクルーシブですね。セブンATMでは、「音」についても、かなり工夫されていると思います。
水村:第4世代の開発時、デザイン全体を大きく見直しました。そこで私がUIデザイナーにお願いしたのは、「生楽器の音にしたい」ということです。
川合:生楽器ですか。
水村:そうしないと有機的な存在にならないと思ったのです。白くて丸いデザインも、新しくつけた木目のエリアも、音も、新たな存在として印象づけようとしました。
川合:素晴らしいこだわりですね。開発にあたり、最も大変だったことはなんですか?
水村:一番難しいのは「何を含めて何を含めないのか」を決めることです。数年かけて開発を進め、いろいろなサービスを載せていくので、将来のニーズを見越したデバイスを搭載しておく必要があります。顔認証だけでいいのか? 虹彩認証は? 指紋認証は? と、1つひとつ決めてデザインしていくことが本当に難しかったです。
独りよがりでは、本当に求められているものは生み出せない
川合:マイノリティの方からいただいた声もたくさんあると思いますが、特に印象的だった声はありますか?
水村:音声ガイダンスを搭載するきっかけになったのが、目の不自由な方々の団体の代表の方からのご要望でした。数年かけて開発する中で、読み上げる声のスピードや誘導の仕方など、実際に触っていただいてフィードバックをいただきながら、2007年にようやく機能としてリリースでき、お礼の手紙までいただきました。
一般のお客様からも、毎月600件以上のポジティブなお声をいただいています。外観のデザイン、UI、音、テンキーなど、トータルでお褒めいただいています。SNSでも音が好きなど、使い心地に関する投稿を多くしていただいています。
川合:わざわざSNSに投稿したくなるATMは、なかなか特異な存在だと思います。インクルーシブの視点で開発をしなければ、気づけなかった点はありましたか?
水村:いろいろとあります。たとえば、目が不自由な方に向けて、音声だけで取引できる機能を作ったときに、当初はゆっくり読み上げることが「優しい」ことだと思っていました。しかし、それを体験してもらったところ、「もっとテンポよく進めてほしい」と言われてしまいました。目が不自由な方は、耳の感覚が研ぎ澄まされているため、ゆっくり読み上げるという配慮は余計なことだったのです。提供サイドの独りよがりはダメで、お客様と共創することが必須だと感じますね。