「ハック」の視点でコミュニケーションを考える
――審査をされる中で感じた新しい学びや、日本のマーケターやメディアに関わる人たちも持つと良いと感じた視点はありますか?
他社のプラットフォームをハックして広告する手法は、日本でも出てくるとおもしろいですね。たとえばブラジルではサッカーの公式ユニフォームをオンラインで注文する際に、名前を入れられるサービスがあります。とあるカード会社が「うちの名前を入れてくれたら、ユニフォーム代を一部キャッシュバックしますよ」というキャンペーンを実施しました。
プラットフォームビジネスが全盛の中で生まれた新しいコミュニケーション方法です。難しいかもしれませんが、日本でもちょっと不思議なコラボが起きるとおもしろいと思います。
また、先程触れた安全にも少し近いですが、法律も一つの着眼点でしょう。ニューヨーク州には切っていないベーグルには消費税かからないのに、切ってクリームチーズを塗ったベーグルには8%の消費税がつく条例があります。フィラデルフィア・クリームチーズが4月14日の納税の日に合わせて「Tax-Free Bagel」という、ベーグルの生地の中にチーズを注入した商品を用意して、webサイトで販売しました。もちろん切っていないので消費税は0%です。「切って塗るだけなのにおかしくないですか?」というメッセージが非常におもしろいですよね。
日本にも、なんで? と感じる法律が存在していて、壁になっている側面があります。それをうまく解決しようとしたのが発泡酒であり、軽自動車といったプロダクトです。法律をハッキングするコミュニケーションも、生活者から喜ばれるのではないかと感じます。特にカンヌは広告のお祭りなので、いわゆる真正面に売れる広告ではなく、世の中をより豊かで楽しいものにするという視点に立った時に、この観点はチャンスだと思います。
アイディアの価値を見直す祭典としてユニークな存在
――最後に平井さんご自身が目指すところをうかがえますか。
私はこの10年ほどはカンヌで賞を狙う広告ではなく、商品が売れる広告作りに向き合ってきました。今回カンヌの審査員を務めて、改めて、クリエイティビティを思い起こすためのアイディア合戦の場としてのカンヌは悪くないと感じました。商品が売れる・売れないではなく、もっと広い視野で世の中の課題に向き合い、解決のためのアイディアを考える。アイディアの価値をもう一度見直す祭典として、カンヌはユニークです。今度は、私もアイディアをエントリーする側として参加したいですね。
