データから示唆を得るとき、マーケターのセンスは問われるのか
Q:重要なN1を見極めるとき、マーケターの感性やセンスは関係しますか?
A:私は自分にはセンスがないことを自覚していて、素晴らしいマーケターの方々を見ても、そこまでにはなかなか到達できないなと思うことがあります。
そこで大事にしているのが「既存を知ること」です。既存の物事=歴史は、今の人の価値観を作り出しているものでもあります。既存でないもの=目新しいものという視点を持ち、既存のものやオーソドックスな物事を知ろうとしてみると良いと思います。
また、主観的でありながら、客観的であろうとする意識も非常に重要です。よく先輩マーケターが「対象に憑依する」とおっしゃられますが、ここでの主観とはそういった意味です。消費者分析にはいろいろな方法や流派がありますが、いずれにおいても「消費者にとことん向き合っている」という点は共通していると思っています。
そうした主観性を持ちながら、一方で第三者的な視点を持つことも必要です。主観と客観は時に入り混じってしまいますから、その点は気を付けなければいけません。
たとえば、Z世代は何を見ても「エモい」と言いますよね。この「エモい」には、様々な要素が含まれていて、絶景を見てエモいと言う人もいれば、昔のドラマを見てエモいという人もいます。「エモい」を切り口にZ世代を紐解こうとするならば、「絶景を見てエモいと言う人と言わない人は何が違うのか」「絶景を見てエモいと思う人は、なぜそれをエモいと思うのか」など、ファクトを求めるべきです。ファクトとなるべきところに主観が入ってくると、調査・分析はとたんに複雑になります。
事実をベースにしなければ、「それはあなたの感想ですよね」という指摘から先に進めません。つまり、再現性のあるインサイトにはならないのです。
商機をつくるか、商機に乗るか
Q:これからくる商機をつかむためのアドバイスをお願いします。
A:数年前にタピオカの一大ブームがありましたよね。タピオカの後にくると言われていたバナナジュースはそこまで大きな流行にはならず、2022年にはカヌレが少しバズりましたが、そこまで爆発的な流行にはなりませんでした。こうした動きを細かく見ていくと、「次はこれがくる!」と自らブームの波を起こす人(企業)と、その波に乗っかろうとする人で、商機のつかみ方は2つに分かれることが見えてきます。
自分は波を起こす側になりたいと考える方もいらっしゃるでしょうが、バナナジュース然り、波を起こせなかった無数の人々がいるわけです。そう考えると、私は、来ている波・来そうな波をいち早く見つけて、その波に乗っかるほうが良いのではないかと思います。少なくとも、「波を起こす」ということに、再現性はないと言えるでしょう。
では、いち早く波を見つけるにはどうすれば良いか? これは結局N1に立ち戻るのが一番良いのではないかと思っています。中でも、メーカー側が想定・意図していない商品の使われ方に、思わぬ商機が隠れていることが多くあります。ユーザーが自社の商品をどう使っているか、より意識してみることから始めてみてはいかがでしょうか。