消費者にお得感を得てもらうための「心理効果型」
本稿の本題に入る前に、第3回で紹介した「価格決定基準」と「24の価格戦略フレームワーク」という重要なワードを振り返ろう。価格決定基準には、「価値」「競争」「コスト」「消費者心理」の四つが存在する。3C分析になぞらえると、価値基準の価格設定と消費者心理基準の価格設定は「顧客視点」、競争基準の価格設定は「競合視点」、コスト基準の価格設定は「自社視点」と言い換えることができる。
そして、この四つの基準に紐づいた価格戦略の枠組みが「24の価格戦略フレームワーク」だ。
連載第4回では、上のマップでいうところの右下に位置する「心理効果型」から見ていく。心理効果型には「プライスライニング」「アンカリング」「シュリンクフレーション」「オッド・プライシング」の四つのタイプが存在する。
心理効果型は「市場均衡型」とは異なり、価格水準の設定にダイレクトに使えるものではない。人間の心理に働きかけ、設定した価格を他の選択肢と比べて「お得だ」と感じてもらうのに有効な方法だ。
松竹梅の「竹」に注目してもらう戦略
プライスライニング
プライスライニングは消費者心理基準のフレームワークで、心理効果型の代表的な手法だ。商品・サービスの内容に応じて800円、1,000円、2,500円のように価格帯を分ける手法を指す。これにより、消費者は各選択肢の特性と価格差をはっきりと認識し、比較的容易に選択しやすくなる。
最も一般的なプライスライニングの例として「松竹梅の法則」がある。消費者は本能的に比較しながら自分に最適なものを選ぶ傾向があるが、選択肢が多すぎると逆に判断が困難となり、購入を遠ざけてしまう。それを避けるために三つの選択肢を用意し、消費者に選んでもらうのがこの法則の基本だ。
なお、人は選択肢が三つあると、真ん中の選択肢が最も平均的なものだと捉える性質がある。つまり、真ん中の選択肢を自然に選んでもらえるよう上下の選択肢の内容と価格を設定すると効果的である。
たとえば「800円」「1,000円」「2,500円」という三つの価格で弁当が売られている場合を考えてみよう。800円と1,000円の価格差は小さく、一方で1,000円と2,500円の価格差は大きい。この設定ならば、消費者は「2,500円の弁当は豪華だが高く、800円の弁当は安いがシンプルすぎる」と考え「1,000円の弁当が丁度良い」と感じるだろう。その結果、1,000円の弁当が最も売れるわけだ。
では「500円」「1,000円」「1,200円」の価格帯で考えてみよう。この場合、500円の弁当は極端に安く見え、1,000円と1,200円の価格差は小さいため、消費者は選択に迷う可能性が出てくる。結果として、真ん中の選択肢への誘導が難しくなるわけだ。
つまり、松竹梅の法則は単に三つの選択肢を用意するだけでなく、真ん中の選択肢を最も売りたいと考えて、そこへの誘導を工夫する必要があるのだ。