営業時代に培われた利益への意識
田部:この連載は、事業成長に真に貢献するマーケティングのあり方や、それを展開していくためにはどうすれば良いのかを考えていくものです。第6回のゲストには、Brandismの木村元さんをお招きしました。木村さんはユニリーバ時代に営業を経験してからマーケティング部門に配属されたそうですね。そんな木村さんが考えるマーケティングの定義を教えてください。
木村:「売上と利益を上げるために、最初に考えるべき根本的な戦略」と定義しています。ブランドは中長期で考えられることが多いですが、営業の現場では単年のPLが課されるものです。今なら2023年の数字を上げてなんぼで「個々の数字の積み重ねがあるからブランドが末永く続いていく」という発想を営業時代に叩き込まれました。
田部:利益を出すためには、売上を上げたりコストを下げたり様々な選択肢があります。利益を出せている企業とそうでない企業の差はどこにあると思いますか。
木村:業界にもよりますが、うまくいかない企業には主に二つのパターンがあると思っています。一つは何かを守り続けることにとらわれているパターン。たとえばテレビCMを例に挙げると、作品としての完成度が高くブランドイメージは担保されているものの「何のために流しているCMなのか」が失われているパターンです。
もう一つは知識や経験の浅さゆえに施策が単発で終わってしまい、一貫性がないパターン。中長期の戦略がないため、足元の売上と利益のバランスが取れません。
田部:それらのパターンから抜け出すためにはどうすれば良いのでしょうか。
木村:私が重視しているのはSTP分析です。お客様の解像度を高め、自分たちのプロダクトやサービスを正しく伝えるための根本的な手法だと考えています。
自社都合のポジショニングになっていないか
木村:最も大切にしているのはS(セグメンテーション)の切り方です。デモグラのように画一的で表面的なものより、お客様のニーズでセグメントを切ったり、別の商品を使っている場合はどう使っているのかを見たりするなど、レイヤーを深いところで分けるようにすると解像度が上がると感じています。
田部:購入金額などの数字で切るのではなく、その背景にあるインサイトまで理解してセグメンテーションする必要があると。
木村:そうですね。定量的に分析しつつ、得られたデータをインサイトの解析やコンセプトなどのアウトプットへ活かすよう意識しています。
田部:狙いたい市場のセグメントと既存顧客のセグメントをどのような順番で分析しているのでしょうか。
木村:クライアントニーズやシチュエーションによりますが、私の場合は自社ではなく外側から分析していくことが多いです。一人でも多くの方に新規顧客となっていただくために行っています。
田部:STPのP(ポジショニング)についてもうかがいたいです。「ターゲットがあって売るものを明確にしてWHO/WHATがあれば良い」という考え方もある中、木村さんはポジショニングの重要性をどのように捉えているのでしょうか。
木村:ポジショニングは技術を要する非常に難しい工程です。よくあるポジショニングマップを使おうにも「そもそもどの軸で切るか」「粒度はどうするか」などの問題が出てきます。自社都合のポジショニングをした結果「ホワイトスペースにあるように見えて差別化ができていない」という事態に陥るケースもありますよね。
難しい工程ではありますが「どこと差別化するか」「差別化するために何をするか」を考えるのがマーケティングの仕事です。広告会社に丸投げするのではなく、事業会社がメディアプランニングやコミュニケーションの方向性を定義した上で、その先のクリエイティブ制作を広告会社と協力して進めていくほうが良いと思います。