研修を機に生まれたウエルシアとの協業
──既にいくつかの企業で研修を実施しているようですが、現時点でどのような反響が見られていますか?
当社の取引先であるウエルシアホールディングス様にアライ育成研修を提供させていただいたところ、同社の松本社長より「DE&Iの観点をビジネスに活かす姿勢が重要」とのお声を頂戴しました。研修からさらに一歩踏み込んだお取り組みができないかと両社で考えた結果、実現したのが「インクルーシブ・ショッピング プロジェクト」です。
同プロジェクトでは、ドラッグストアを普段から利用するLGBTQ+のお客様や有識者を招いたワークショップを3回開催しました。日用品や薬などを求めて買い物をする際の悩みやニーズ、実体験のヒアリングを行ったほか、別途LGBTQ+のお客様173人およびウエルシアの従業員2,265人へアンケートを実施。ヒアリングとアンケートの結果を基に開発したものが「インクルーシブ・ショッピング ハンドブック」です。お客様の性のあり方にかかわらず必要な物を安心して購入いただくために、接客時の注意点をまとめました。
店頭向けの研修において、接客にあたるスタッフの方が自身のバイアスに気づく場面がありました。外見で来店客を「男性だ」と判断した場合、おすすめの製品を尋ねられると即座に男性向けの製品を案内してしまうそうです。「相手の真のニーズを引き出して製品を提案することが大切だとわかってはいるものの、忙しさからつい思い込みで対応してしまっていた」とおっしゃっていました。
──本号のテーマは「社会価値創造と事業成長を考える」です。社会価値創造と事業成長の両立に、アライ育成研修はどう貢献しているとお考えですか?
これまでDE&Iの文脈でビジネス上のパートナーシップを結ぶ機会はほとんどありませんでした。今回のように、人材育成研修を店頭でのサービスやキャンペーンに活かせた点は、事業成長につながっていると考えています。当社のビジネスモデルはBtoCですから「このブランドは自分のことを理解してくれている」「この店舗は自分に合った商品をすすめてくれる」と生活者に実感してもらうことが大切です。生活者とのタッチポイントで満足度を上げる取り組みに意義を感じています。
「自社がやる意義」を見出せるか
──社会価値創造と事業成長をバランスさせるために、読者であるマーケターが意識すべきポイントを教えてください。
「社会課題に対して、担当しているブランドやサービスがどう貢献できるか」という視点で考えていただくと良いのではないでしょうか。当社の場合、製品とお客様の重要な接点である小売店様と協力しながら、アライ育成研修をインクルーシブ・ショッピングという具体のアクションまで落とし込んだことに大きな意味があったと考えています。自社がやる意義を見出せない取り組みは「やって良かったね」で終わってしまうからです。
自社やブランドの提供価値と社会課題がうまく重なるポイントを常に探求する姿勢が大切なのかもしれません。その結果生まれた取り組みが競合他社との差別化につながるのであれば、事業成長にも寄与するはずです。
──最後に、読者に向けたメッセージをお願いします。
マーケティングは非常にパワーの大きい営みだと思います。アプローチ一つで、その企業やブランドに対する生活者の受け止め方が変わるからです。マーケターの皆様は短期的・中期的・長期的な成果のために様々な要素をバランスさせる必要があるかもしれませんが、社会課題とビジネスのバランスは長期的な観点で取り組んでいただけるとうれしいですし、当社もそう努めたいと考えています。