購買周期の13年間、「ダイキン=エアコン」を刷り込み続ける
田中:今回の取材では、DX×ブランド戦略についてもぜひ伺いたいと思っていました。あらゆるところでデジタル化が進んでいる中、広告戦略を展開するのは難しい点もあると思うのですが、現場から見ていかがでしょうか。
片山:今、テレビCMを放映しても20代の消費者にはなかなか見てもらえません。マスメディアに代表されるペイドメディア、つまり広告だけでブランドはできません。Webサイトのようなオウンドメディアや第三者発信のWebメディア、個人発信のSNSなどに、いかにダイキンの情報を蓄積させていくか? ということを意識しています。世の中の人々が空気や空調に興味を持ち、情報を探した時に、デジタル上でダイキンの情報に触れる。そこでダイキンを認知し、エアコンを購入したり、就職を考えたりする時にダイキンという選択肢を持ってもらえれば……という考え方で、戦略PRをベースにした統合型マーケティングコミュニケーションに力を入れています。
田中:エアコンという商材は、買い替えが13年周期なので、13年に1回思い出される必要があると聞きました。家電量販店などに足を運ぶ回数も、ネットの影響で昔に比べると減っているのでしょうか?
片山:エアコンもコロナ禍でネット購入をされる方が増えましたが、エアコンはどうしても取付工事がありますから、やはり家電量販店の店頭で多く購入されています。
また、エアコンを買う時は、13年に1回の買い替えのタイミングで、動かなくなったから買い替えるというパターンが多いのです。買い替えるということは、暑いか寒いかでエアコンを使っている最中に動かなくなっているので、すぐに欲しいわけですよね。買いたいと思った時に、ダイキンを想起してもらって選んでいただけるよう、とにかく13年間は、手を変え品を変え、「エアコンといえばダイキン」ということを伝え続けなければなりません。
田中:テレビ広告もそれなりに出稿されると思うのですが、統合型マーケティングコミュニケーションの中でどういった位置づけですか?
片山:先ほどテレビが若年層に届かないという話をしましたが、そうは言っても、テレビは強制的に認知を獲得できる点では最も強いメディアです。「エアコンといえばダイキンです」と能動的に広く知ってもらうために、テレビCMは絶対に必要なものです。
コントロールできないメディアで、いかに情報を拡散するか?
田中:そうした統合マーケティングコミュニケーションをうまくワークさせるポイントは何でしょうか?
片山:世の中の人々が関心のある事柄と、ダイキンとして提供できる情報を結び付けること。とりわけ、人々の関心が生まれ始めるタイミングをキャッチして、どこよりも早くコンテンツにして、PRで広げていくことだと思います。
この手法が一番効果的に働いたのは、ちょうどコロナの時期です。「換気しなければ!」となり、社会全体で“空気”への関心が一気に高まりましたが、急に「換気してください」と言われても、みんなどうすれば良いのか詳しくはわからなかったですよね。そこで、オウンドメディアで換気方法をわかりやすく紹介するコンテンツを最速で作り、PRでリリースしたり、SNSで発信したりしました。
すると、コンテンツを見た方々が「これすごく良いよ」「わかりやすいからみんなも使って」とシェアして下さって、SNSでこの話題を見たテレビ局の方が取材に来て下さり、テレビで取り上げてもらうとまたオウンドメディアに来る人が増えて……という好循環を生み出すことができました。2020年のPRアワード最高賞もいただいています。
直近では、電気代がこれだけ高騰しているので、エアコンの電気代を安くするためのポイントを解説するコンテンツを作りました。専業メーカーであるダイキンには、電気代を安くするための知見がたくさんあります。世の中で関心が高くなっている「省エネ」とダイキンが提供できる「省エネの知見」を結び付けたものです。こちらも非常にうまくワークしています。
今、広告だけをやっていても、世の中には届きません。オウンドメディアやPRなども含めて統合的にコミュニケーションを組み立てる必要があります。ただ、PRや個人のSNSなどのアーンドメディアだけでは、企業サイドでは情報発信をコントロールできません。コントロールできないメディアに、いかに我々の意図する情報を広げ・貯めていくかは重要なポイントです。