もはやマイノリティとは言えない。拡大が続いている市場規模
MZ:ブランド・アクセシビリティの重要性が高まっている社会背景についても教えて下さい。
奥村:超高齢化が進む日本では、高齢者にあたる65歳以上の人口が増加しています。これにともない、何かしらの障害がある方の人数も2006年時と比べると約300万人も増えており、現在、総人口のうち約7.6%の方が障害者であると言われているほどです。さらに世界を見てみると、10~15億人が障害があるとするデータもあります。
これまで、障害者=マイノリティと思われてきたかもしれませんが、数字で見ると10億人規模の市場がある。これからの時代、ここを無視してブランドを作るわけにはいかないでしょう。

垣内:私は車椅子を使って生活をしていますが、目も見えますし、耳も聴こえます。不自由なのは、歩けないことくらいです。しかし、高齢者の方々は加齢にともなって、目は見えづらく、耳も聴こえづらく、歩くのも大変になっていく。すなわち、高齢者は障害者のニーズをあわせ持っているような状態にありますから、障害者への理解なくして、高齢者市場へのアプローチは叶わないと私は考えています。

日本に約1,000万人いると言われている障害者と3,600万人超の高齢者、あわせると非常に大きな市場があることを考えれば、ビジネスとしても取り組む意義が大きいだろうと考えます。
法改正の影響も。2024年春より「合理的配慮の提供」が法的義務に
垣内:私からもう少し昨今の社会背景についてお話ししますと、SDGsやESGに対する機運が高まるにつれ、障害者を取り巻く取り組みもこの数年で確実に加速しています。
少し遡りますが、2006年に国連で「障害者権利条約」が採択されて以降、世界各国・様々な分野で障害者の自由や平等を確保するための整備が進んできました。日本は少し出遅れましたが、「障害者差別解消法」が2013年に成立、2016年より施行されています。
障害者差別解消法で定められていることは大きく2つ、「差別の禁止」と「合理的配慮の提供」です。前者の「差別の禁止」は、言葉のとおり、障害者であることを理由に差別をすることを禁止するものです。たとえば、私もタクシーに乗車拒否されたり、飲食店への入店を拒否されたりすることは残念ながらまだゼロではありません。たしかに、雨の日は特に車椅子をトランクに乗せるのが面倒な気持ちもわかります。ですが、法律上そのような差別を禁止することは明文化されていますから、これについてはきっと変わっていくだろうと楽観視するところです。
一方で、もう1つの「合理的配慮の提供」はなかなか難しいのです。これは、障害のある方が何らかの求めをした場合、ちゃんと対応しなければならないということを定める法律なのですが、2016年の施行時、民間事業者は努力義務扱いでした。すべての企業に対し、いきなり施設やオフィス、工場でバリアフリーの整備を進めよと言うのは負担の大きい話ですから、仕方がないとも思われます。
ところが、社会全体でSDGs推進の機運が高まっていることもあり、「合理的配慮の提供」に関しても2021年に法改正が成立し、来年4月からは民間企業においても法的義務となります。この法改正が、多くの企業にとって障害者に対する自社の取り組みを考える大きなきっかけになっています。
MZ:法的義務となると、議論や取り組みもぐっと進みそうです。
垣内:アメリカで施行されているADA(Americans with Disabilities Act)は日本よりもかなり厳しいもので、たとえばモバイルアプリ上でバリアフリーが完備されておらず、商品の注文ができなかったり、決済ができなかったりするだけでも、裁判になったりします。奥村さんからブランド・アクセシビリティについて説明がありましたが、プロダクトはもちろん、ウェブ上での情報の伝え方や見せ方など一つひとつの物事に対するアクセシビリティを考える重要性は、今世界で高まっています。