「誰も取り残さない」をどう実現するか
MZ:ブランド・アクセシビリティの考え方を踏まえて、マーケティングにおいてはどのようなアクションが求められてくるでしょうか?
奥村:ブランド・アクセシビリティでは“誰も取り残さない”ということを考えますが、マーケティングでは、ターゲットを決めるところからスタートしますよね。誰のためのブランドなのかを明確にすることは、マーケティングの基本であり、とても重要なところです。マーケティングにおいて“ターゲティング”がなくなることは、これからもないでしょう。
大切なのは、これまで重視してきたターゲット=顧客にいかに価値を届けるかという視点を持ちながら、障害者が感じやすいペインをなくし、誰もが心地よい体験をいかに作っていくか。この両方の視点を持つことが、企業には求められてくるのではないでしょうか。

垣内:そうですね。先ほど総人口の約7.6%が障害者であるという話がありましたが、それをベースに考えるなら、たとえば40代男性100人を調査対象とする時、100人中8人くらいは障害者を対象者に入れる必要があります。障害者の声を拾うプロセスは、今後どの企業も考えていくべきと思います。
MZ:障害者の声を拾えるリサーチを定常的に取り入れられている企業やマーケターは、少ないと思います。具体的にどういう方法があるのか、教えていただけますか?
垣内:従来は「地域の障害者5人に話を聞きました」といったやり方が多かったと思いますが、たかが5人や10人では障害者が求めているものを総体的に捉えることはできません。
たとえば、車椅子の利用者でも、積極的に外出する方もいれば、そうでない方もいます。最近車椅子に乗り始めたばかりの方もいれば、ずっと車椅子で生活している人もいます。車椅子使用者の多様な意見を聞こうとするなら、100~1,000人規模でリサーチを行う必要があるでしょう。
障害者の声を聞く方法の一例として、我々が提供している「ミライロ・リサーチ」というソリューションがあります。ミライロでは、障害者手帳を所有している人を対象にスマートフォン向けアプリ「ミライロID」を提供しており、現在数十万人の障害者の方々がIDに登録しています。ミライロ・リサーチでは、彼らに対してアンケートを実施することが可能です。通常のWebアンケートもあれば、「この店舗で実際に不便に感じたことはありましたか?」などと実地アンケート調査をお願いしたり、共通の障害のある方に集まっていただきグループインタビューを実施したりすることもできます。一般的なマーケティングリサーチと変わらない形で、リサーチに活用いただけると思います。
そして、障害者のみなさんは、そういった形で企業が自分たちの声を聞いてくれることを待っています。自分の思いを届けたい、社会を変えたい、もっと便利な商品やサービスを増やしてほしいと思っている方が多数なので、調査にも前向きに関わってくださる方が非常に多いのです。データが欲しい企業にとって心強い存在だと思います。