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実践企業に聞く!経済価値と社会的価値の両立

なぜTENGAの価値観は共感されるのか?性のオピニオンリーダーが地道に続けるコミュニケーションに迫る

セクハラや中傷の奥に潜む社会課題

菅原:西野さんは広報担当時代から顔を出してSNSやメディア出演されています。セクハラや中傷、心無い投げかけもあるそうですが、会社や社会のためとはいえ葛藤や心労も多いのではないでしょうか。

西野:SNSを始めた理由は、まだアダルトアイテムがメディアで取り上げられづらかった時代に、「出版社を辞めてTENGAに入社した」という私の経歴にフォーカスが当たり、“人”起点で取材してもらうことで会社や商品の認知を広げられるのではと思ったからです。

 心無い発言については瞬発的な怒りはありますが、その向こう側にある「なぜこの人はこういうことを言うんだろう」に興味が移るんです。たとえば、TENGAの広報としてテレビに出始めたときは、男性から「エロそう、一発お願いしたい」などのコメントが来ました。そのような発言の背景には「女性は基本的に性にあまり興味がないか、隠しているものである」と考えていて、だからこそ性を表に出している女性には「こういうことを言ってもいい」との思考があったのだと思います。また、女性から「女性の性欲は汚い」と言われることもあります。

 もしかしたら幼少期の教育方針や環境・体験によって、そのような考えになっているのかもしれません。どのような経験・価値観があってどういうことを考えているのか、興味が尽きないです。

菅原:性に関する発言を通して今の社会が見えてくる、そして、社会の状態に目が行くからこそ、西野さんは前に立つことができるんですね。

西野:大前提として誹謗中傷は違法行為です。ただ、そのような発言をする人が今まで経験してきたことや、今まで得てきた情報、社会に通底している価値観のほうに問題があるのではないかと考えています。それをコミュニケーションの観点から解決していくのが私たちの役割だと思っています。

「難しいことを難しいまま伝える」方法を模索

菅原:最後に、今後どのようなお取り組みをしていきたいかうかがえますか?

西野:女性の性的欲求を肯定する人たちも増えてきている一方で、男性の性的欲求が悪者にされていないだろうかという思いがあります。また、TENGAの発売開始時に受け入れられていた価値観が、今の若い世代とは相容れない場合も多いです。今後は新しい世代の人たちにも性を楽しんでもらえるコミュニケーションを考えていきたいです。

 情報が氾濫している現代は、1つの事象に対する判断が“良い”と“悪い”で二極化されていたり、単純化されたりしがちです。性について「多様性に富んで自分らしくいていいんだよ」という人もいれば、「男らしい・女らしいに従うべき」という人もいる。でも、そのどちらにも当てはまらない人もたくさんいると思うんです。この人たちにとって一番快適な価値観って何なんだろう、ということを最近考えています。

 これは個人的な話ですが「難しいことを難しいまま伝えたい」と思っています。今は要約コンテンツも多くありますが、人が要約したものを見ることで取りこぼしているものもたくさんあるはずです。世の中がこれだけ複雑化していて、単純に測れるものが少なくなっている中で、飲み込みやすい情報だけを摂取するのは危険だと感じます。難しいことを難しいまま伝える方法もPRパーソンとして模索していきたいです。

菅原:私たちは本来、「この1行に書かれている内容が知りたい」のではなくて、「文脈全体を通したこの1行の意味を知りたい」んですよね。そして、それをたくさんの人に知って欲しいとも思う。TENGAの価値観に共感する仲間が増えているのは、TENGAが志や価値観の文脈をタブーなくきちんと整理した上で、「私たち、こう思うけど、どう思う?」とアジェンダとして投げかけ、それに対してお戻しいただける様々な解釈を分け隔てなく多様性をもって受容してきたからこそだと思います。時間も手間もかかりますが、文脈とセットで価値観を提供することが改めて重要だという大きな事例と言えます。

 本日は興味深い話をありがとうございました。

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この記事の著者

菅原 賢一(スガワラ ケンイチ)

 株式会社パブリックグッド 代表取締役
1975年岩手県生まれ。プラップジャパン、インテグレートを経て、2013年にソーシャルマーケティングを手掛ける株式会社パブリックグッド設立。日本PR協会主催PRアワードグランプリ「ソーシャルグッド部門」にて2020年ブロンズ、2021年シルバー受賞。
2023年、事業活動...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

堤 美佳子(ツツミ ミカコ)

ライター・編集者・記者。1993年愛媛県生まれ。横浜国立大学卒業後、新聞社、出版社を経てフリーランスとして独立。現在はビジネス誌を中心にインタビュー記事などを担当。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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2023/11/08 16:24 https://markezine.jp/article/detail/43408

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