デモグラ・行動ターゲティングの限界
「ある市場について、30代女性がコアユーザーで30%を占めているとします。言い方を変えるとコア層以外が70%も存在するのです」(高見氏)
講演の冒頭、高見氏はデモグラフィックデータに基づいたターゲティングの限界を指摘する。メインのセグメントに伝えるだけでは市場を網羅できず、取りこぼしが生じてしまう。このためマーケティングにおいて「脱デモグラ(脱デモグラフィック)」の流れが加速していると高見氏は語る。
脱デモグラを背景に、行動ターゲティングが注目されてきたが、実はこの行動ターゲティングにも限界があるという。
「ニーズが顕在化している層の刈り取りが一巡し、生け簀(いけす)が空っぽになってしまい、改めて需要創出をしようとすると、その対象はオールターゲットにせざる得なくなります。もちろん、獲得した人たちの属性を分析し、近しい属性の人にフォーカスすることは可能ですが、いずれにしろ確度は低くなります」(高見氏)
そのため、マーケティング戦略において、デモグラや行動データにとどまらず価値観を加味したターゲット戦略にシフトして久しい。デジタルマーケティングも興味・関心でのプロファイリングの進化が続いている。とはいえ、属性情報も行動情報も表面に表れた情報であり、心の奥底を捉えたものではない。
「ターゲットをより深いレベルでセグメントする、需要創出にあたってのトリガーを見つける、こういったことを行うには『心』を捉える必要があります。心を捉えるアプローチとしては定性的な、たとえばグループインタビューなどは行われてきており、深掘りもされてきました。ただし、定性的なアプローチは商品やサービスごとに都度行う必要がありました」(高見氏)
そのため汎用性に欠けるという弱点があった。またインタビューは一度きりで終了するケースも多く、ユーザーの動きを時間軸で定点観測していくことも難しい。そこで高見氏も参加する消費者研究プロジェクト「DENTSU DESIRE DESIGN(DDD)」は心を定量的に体系的に捉えることができればマーケティング全体の進化につながると考えた。
「属性・行動は表面的な情報として利用し、奥底にある『心』を内面情報、すなわち“ニーズのさらに奥に潜むもの”と捉え定量的に体系的に把握することで、マーケティングはもう一歩前進できるのではないか。心の中を可視化し、それを定型化することに挑み、私たちは11の欲望を発見しました」(高見氏)
いかにして欲望は形成されるか
デジタル技術の発達はマーケティングを進化させ、ニーズを持つユーザーを捉えやすくなった。一方で顕在化したニーズを追いかけ続けていくだけでは、潜在層を捉えることは難しい状況にも直面している。
「ニーズが可視化できる時代だからこそ、ニーズのさらに奥にあるもの=欲望(Desire)を捉えていくことが必要です。ただ、人の心を理解するのは本当に難しい。自分の心ですらよくわからないことが多い。まして他人の、自分以外の人の心を理解するのはさらに難しいことだと感じます。実際、表面に現出した情報や属性によって分類したターゲットたちの心の中は、必ずしても同一ではないことは明らかです」(高見氏)
心の中を定型化する上で、消費に至るまでの流れを改めてモデル化することから始めていった。このモデルを「欲望(Desire)行動モデル」とし、「根源的欲求」と「価値観基盤」から生まれる「欲望〜行動」へのフローとして仮に置いた。
「根源的欲求」は心理学における「欲求」つまり、マズローやシュワルツ、マレーなど先人たちが明らかにしたもので、人間が本来的に持つ肉体的・精神的な「求め」であり、時代や個人によらない共通普遍ものものだ。
一方の「価値観基盤」は根源的欲求が人の性格や生きてきた時代、その過程で育まれた価値観などによって形成される個々人固有の特質と出合うことで、ある性向は強まりを見せ、別の性向は弱まりを見せる「フィルター」のような役割を果たすものとして定義した。
「私たちは欲求を43の具体項目に細分化し、アンケートを実施、因子分析を行い、グループ化しました。そして、個々人が持つ『価値観基盤』という変数と『根源的欲求』を掛け合わせることで、『欲望』が形を成していくというメカニズムを見出したのです」(高見氏)
セッションにて、下記の質問をいただきました。
ライフステージやライフイベントによって、こういった個人の指標や感覚は変化する可能性があると思いますが、ID単位で定点的な更新を加えていくイメージでしょうか? それともこういった基本的欲求はパーソナリティに依存するのでしょうか?
こちらについては、現在は統計的な集計を重視しているため、ID単位での継続聴取は行っていません。定期的に代表性のあるサンプルから回答を得て、因子分析、及び重回帰分析を行い、変化がないかを確認しています。