顧客対応記録の活用が進展、特に音声データ解析の需要に高まり
近年ではコールログや営業日報といった顧客対応記録が注目されている。音声データや従業員が気づいた顧客の声は、現場の生の声として非常に価値があるのだ。
コールログからは顧客の具体的な問題点や顧客像に基づく改善要望をとらえることができる。一方、営業日報ではエンドユーザーではなく販売店の声や、販売店を通した顧客の声を得られる。何が求められているのか、どのような点が受け入れられている・いないのかを分析できるわけだ。
これらのデータを組み合わせることで、分析の精度を向上させることができる。たとえば、コールセンターで特定のネガティブな問題点が浮上した場合に、SNSのデータを参照すると、それが一部の意見であることが明確になる場合がある。複数のデータソースを統合的に分析することで、どの声に重点を置くべきかが明確になるのだ。
また、CRM部門では、コールログとCRMのデータを結びつけ、さらにSNSとの連携も進める動きも出ている。会員情報だけでなく、顧客の日常や悩みをとらえ解像度を上げることで、より深い関係の構築につなげているという。
「顧客の声」として、音声データの活用も注目されている。一口に音声といっても多様なデータがある。マーケティング分野においては顧客対応記録における音声や、インタビューなどマーケティングリサーチ上の音声、店頭で接客での会話などが考えられる。
音声・会話の分析はテキストベースの分析とは異なるアプローチが可能だ。たとえば、誰が・どのようなことを・どれだけ話したかなどがわかる。また話題の把握についても、最初に取り上げられやすい話題は何か・会話のフェーズによって話題はどう遷移するかなどの分析が行える。会話の流れを観察することで、特定の話題や問題点がどのタイミングで現れるのかが明確になる。
たとえば、接客指導の場面で、ベテランの店員がどのような会話の切り出しや展開をするのか、またそれがどのような結果をもたらすのか、といった分析から、効果的な接客方法や、接客の質を向上させるための手法が明らかになるのだ。
「顧客の声を根拠とした社員の声」の共有がビジネス成長の鍵
五十嵐氏は、顧客の声(VoC)をポータル化し、各業務部門が業務に活用するだけでなく、その声から得た社員の気づき(VoE)集約し、組織を横断して共有する必要性も示す。
VoEはVoCに基づいているため根拠が明確だ。社員が部門を超えてVoEを確認することで、さらなるアイデアや意思決定の根拠が得られるというメリットもある。DX部門やデジタルマーケティング部門が旗振り役となり、各部門がVoCとVoEを活用して戦略立案や施策実行を行い、その結果得られる声をフィードバックして蓄積していく動きが大企業を中心に始まっているという。
五十嵐氏は、最後に改めて顧客の声を可視化し、組織的に活用する重要さを唱え、次のようにコメントし、講演を終えた。
「顧客の声には大きな可能性が秘められています。ファクト、インサイト、ギャップの示唆を得る過程では、人々の持つ思考力や創造性が引き出されます。このプロセスを通じて、改善だけでなく革新的なアイデアが生まれています。顧客の声をアイデア創出に活かせる組織は、データ活用が高度に進んでいるといえるでしょう」(五十嵐氏)