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MarkeZine Day 2025 Retail

小さな会社、大きな仕掛け

10人中10人に買ってもらうことを目指して ひとりECの「ミウラタクヤ商店」に商いの原点を学ぶ

「CVR1%」は目指すべき基準なのか?

 コミュニティの運営によって三浦さんは思わぬ副産物を得た。コンテンツのネタだ。ECサイトの運営に欠かせないメルマガを、ミウラタクヤ商店では週に3~5回も発行している。複数のコミュニティで日々アップされる投稿がメルマガのネタになり、量産を可能にしているわけだ。

 コミュニティで見つけたネタについて三浦さんが10分程度話し、その録音データをOpenAIの文字起こしツール「Whisper」でテキスト化する。コンテンツ一つあたりの制作時間がわずか数十分と聞いて驚きを隠せない。三浦さんが使いこなすShopifyを含め、ひとりECはテクノロジーによって支えられていると言っても過言ではないだろう。

 EC業界には昔から「コンバージョン率1%」という謎の基準が蔓延している。サイトを訪問した100人のうち、ひとりが購入に至れば良しとするこの考え方を、ミウラタクヤ商店では採用しない。

「100人中ひとりに購入してもらうモデルはあまりにも非効率ですし、少し不誠実ですよね。ミウラタクヤ商店では、10人中10人に買ってもらうことを目指したいんです」(三浦)

 ミウラタクヤ商店の取り組みに通底する思想がこの言葉に内包されていると筆者は感じた。これまで語られてきたマーケティングのセオリーは「多くの人に知ってもらい、その中から確率論的に顧客を生み出す」というものだ。しかし、そのセオリーに基づいて企業が発信するメッセージは非購入者にとって有益とは言えず、何ならスパムとして受け止められている可能性すらある。その結果、無駄な問い合わせや苦情が寄せられ、対応に追われる現場が疲弊してしまうこともあるだろう。

悩み解決→対価の順番を忘れない

 そう考えると、興味があるかどうかわからない1,000人にメッセージを送って10人に買ってもらうより、強い興味を示す10人にメッセージを届けて10人に買ってもらうコミュニケーション設計をしたほうが、明らかに効率的かつ健全である。もちろんこれは理想論に近い。ただ、理想を求めなければ理想に近づくことすらできないのだ。強い興味を示す10人にだけメッセージを届けるためにはどうすれば良いか。徹底的に考えるべきだろう。その試行錯誤にこそ自社のオリジナリティが表れると筆者は思う。

 ミラウタクヤ商店の取材を通して、筆者は商売の本質を見出した気がする。テクノロジーに寄り添い、自身のタスクの効率化を追求しながらも、顧客との接点においては効率を求めない。あくまで選択権は消費者サイドにあることを理解し、意思決定を促すのではなく意思が決定されるのを待つ。そんなスタンスに、三浦さんが持つ商売の哲学のようなものを強く感じずにはいられなかった。

「マーケティングはサイエンスである」という話もあるが(それも間違いではない)、これからのマーケティングでは哲学や思想に重きを置くことが重要視されるのではないか。元来、商売とは商品を売るための営みではなく、顧客の悩みを解消するための営みであるはずだ。顧客の悩みを解消するために商品やサービスがあり、その対価を受け取ることで企業は成長していく。この順番を間違えてはいけない。三浦さんの取り組みは商売の原点を思い出させてくれた。

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この記事の著者

阿部 圭司(アベ ケイジ)

アナグラム株式会社 代表取締役/フィードフォースグループ株式会社 取締役。大手アパレルメーカーを経て運用型広告の世界へ。リスティング広告やFacebook広告を筆頭とする運用型広告の領域が得意なマーケティング支援会社アナグラムを創業。その後、フィードフォースグループにグループジョイン後、現役職。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/05/29 12:14 https://markezine.jp/article/detail/43680

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