コンテンツ過多な現代の課題
はじめに現在のコンテンツマーケティングが抱える課題について、ブライトコーブの柏原氏は「情報過多の時代において、コンテンツが埋もれてしまう」ことだと語り、以下のように続けた。
「そもそも人間の限られた可処分時間に対してコンテンツがあまりに多すぎるため、自社コンテンツが埋もれ、視聴されない可能性があります。企業が伝えたい情報が本当に伝わっているかは、視聴者の方々が実際に購買行動を起こすまでわかりません」(柏原氏)
企業がコンテンツマーケティングに取り組むにあたり、まずは施策を通して達成したい目標、つまりKGIやKPIを明確化させる必要があると柏原氏。たとえば認知拡大のためにコンテンツを発信する場合、視聴回数・再生率・視聴時間・CV率などコンテンツへのアクセス数がKPIになると考えられる。
一方で既に興味関心がある顧客のリード獲得を行いたい場合は、アクセス回数だけでなく滞在時間やエンゲージメントなど、「伝えたい情報がちゃんと伝わっているか」に関するデータを取っていくことになるだろう。
自由にコンテンツや情報を発信できる今の世の中だからこそ、コンテンツ同士の激しい競争が起きている。この競争の中でユーザーの心をつかみ情報を届けるには、企業はどのようなコンテンツを作ればよいのだろうか。
動画コンテンツ活用における3つの利点
柏原氏はコンテンツマーケティングにおいて動画活用が有効であると提言し、そのベネフィットを3点挙げた。
1点目は、情報伝達効率の良さだ。柏原氏は「1分間の動画には、ウェブ3,600ページ分の情報量がある」と解説。たとえば浜辺を表現する場合、テキストで描写するよりも波の音や動く波の映像のほうが、短い時間でより正確かつリッチな情報が伝わる。動画は人間の感覚や感情に直感的に訴えかけやすいのだ。
2点目は、スマホなどの小さなスクリーンでも非常に密度の高い情報を盛り込めること。マルチデバイスに対応し、どこでも手軽に視聴可能だ。
3点目には、定性的なフィードバックを得るための仕組みを組み込みやすいことが挙げられる。テレビの通販番組を例に取ると、商品紹介の後に司会者が価格を発表する瞬間、消費者は電話をかける。それは視聴者のムードが一番高まった時に行動を促す仕組みを作っているからだ。他にも動画に商品が大きく映された瞬間にECサイトの商品ページへのリンクを出すなど、適切なタイミングで行動喚起を行えば、CV率向上を図ることができる。
しかし、人間の集中力には限界がある。「企業がリッチな情報を伝えようとすると、どうしても動画は長くなりがちです。ですが集中力の観点から考えると、マーケティング活動としては、長い動画より短い動画が優れているといえます」と柏原氏は注意を促した。
動画運用の体制づくりや目的・導線設計のポイントとは?
セッションの中盤では、動画運用の際に考慮すべき具体的なポイントを解説した。
1つ目は体制と組織作りだ。柏原氏は「誰が動画を企画するのか、どの部署が運用・管理していくのかを、最初に決めることが重要」だと話した。加えて管理の観点から、日付や運用部門名を入れるなどコンテンツの命名規則も意識すると良いという。
2つ目は、動画運用の目的と動線の設計だ。何のために動画を運用するのか、視聴者にどのような行動変容を促したいのかを定義することが重要になる。そのうえで動画企画が成功したと見なせる条件を確定し、KGIやKPIに落とし込むのだ。
行動を促す仕掛けである視聴者動線の設計については、成功条件の達成を目指すと「動画構成はおおよそ決まってくる」と柏原氏。動画内に表示されたリンクからCVさせたい場合は、その商品が大きく映されているシーンにクリッカブルなボタンの形でECサイトのリンクを設置すると良い。また動画内にリードフォームを設置するのも1つの手になる。
動画から得られたデータの活用事例を紹介
3つ目として、視聴データの収集と利活用を柏原氏は挙げた。動画では、視聴データの収集とそれをマーケティング活動へどう利活用するかがカギとなる。
「動画から取得できるデータでは、再生回数や離脱発生ポイント、企業が伝えたいことが伝わっているのかなどを把握することができます。また、サードパーティ製のMAツールやリード情報がまとまったリストなどがあれば、連携することで誰がどのコンテンツを何分何秒見ているのか、といった個人単位での視聴データも取得できます」(柏原氏)
特にオウンドメディアのメリットは、データの所有権が運用企業側にあることだ。取得したデータは、リードのランク付けやコンテンツの性能把握に利用できる。ここで柏原氏は、実際の活用事例を紹介した。
1つ目の事例はある製薬企業だ。情報提供先である医師や看護師などの医療従事者がアクセスする会員制サイトを運営し、その中で動画を公開している。リードの視聴データを収集することで、顧客が何に興味を持っているのかを、情報提供前に把握できる仕組みだ。「そのおかげで、成約に至る確率が高いリードに対して適切な営業を行えるのです」と柏原氏は語った。
2つ目の事例は、サブスクリプション型でビジネスツールを提供する日系SaaS企業。既に契約がある顧客との距離感を図り、その製品の利用を促すために動画を利用している。同社が公開しているコンテンツは自社主催ウェビナーのアーカイブ映像で、その視聴データを収集している。
「2つ目の事例の企業の場合は、たとえばサービス利用率は低いのに動画の視聴率が高いユーザーに対して、使い方がわからないのかテクニカルな問題が発生しているのかなど、製品を利用する中での課題があるかもしれないと推測するのです。視聴コンテンツや視聴時間などのデータに基づいて、適切な顧客フォローを実施しています」(柏原氏)
視聴者のエンゲージメントを“見える化”するには
動画のデータからエンゲージメントを計測するにはどうすべきなのだろうか。柏原氏は、ブライトコーブの動画プラットフォーム「Video Cloud」について解説。Analyticsデータからグラフでエンゲージメントを確認でき、コンテンツの性能把握に役立てることができる。
このグラフの横軸は時間、縦軸は離脱を表す。左上が動画の開始時点であり、グラフの値が一番高い。時間が経つにつれ、視聴者が離脱していく様子が見て取れる。またグラフにカーソルを合わせると動画中のシーンを特定することができ、パフォーマンスの良し悪しを数値で確認することが可能だ。
加えて、集中力を維持し顧客体験を向上させるツールとして、視聴者との間で双方向のコミュニケーションを実現するインタラクティビティツールも充実。動画をチャプターごとにわけて目次を設定したり、商品カートへのリンクを設置したりできる他、途中でクイズを表示し理解度を測ることもできる。
次に柏原氏は、3つのエンゲージメントパターンを解説した。図の1番上のグラフは奇麗な直線に見えるが、所々に凹みがある。これはおそらく、スキップもしくは早送りされている部分だ。したがって、視聴者があまり興味を持たなかったシーンだと推測され、チャプターを入れるなどの対応で改善する可能性がある。「全体としては良く視聴されているので、リードフォームやアンケートフォームなどを入れても、良い回答率が見込めます」と柏原氏。
2番目のグラフは、途中でガクンと離脱する瞬間が見える。この場合は、視聴者が見たいものと企業が提供したいものがずれている可能性があるため、確認が必要だ。
3番目のグラフは、前半がまったく視聴されずスキップされている。一方、後半はしっかり視聴されており、最後には少し上向きになる部分が見られる。この場合、前半部分のニーズ調整が必要だ。同時に、上向きに回復しているところに商品リンクを設置すると、CVが見込める。
リッチな動画体験には視聴データの活用が必須
最後に柏原氏は、企業が動画を活用する上でのポイントをまとめた。
「まず何よりも、動画の利用目的をはっきりさせることが大切です。その上で、視聴データをしっかり収集・活用できる仕組みを作りしょう。視聴データはコンテンツの施策や改善に役立ちます。より良い顧客体験を提供することがお客様のロイヤリティの向上や企業のブランド価値の向上につながり、最終的には売り上げにつながります」(柏原氏)
また柏原氏は、よくある質問としてYouTubeとの違いにも触れた。YouTubeは多くの人々との接触回数を増やせるため、製品の認知を広げる際に非常に便利なツールだ。いくら発信しても無料で使えることも大きなポイントとなる。
その一方、リード獲得後にリッチな情報提供をしたい場合や、顧客ごとに細やかなフォローをしたい場合には、データの利活用の面がネックになるという。よって視聴データの効果的な利活用を行うのであれば、YouTubeなど無料のプラットフォームよりも、有償プラットフォームのほうが有効だといえるだろう。
加えて、一方的な情報発信だけでなくインタラクティビティを持たせたい場合には、有償ツールの使用が必須となる。「リードを温める段階の手段に迷っている方はご相談ください」と柏原氏は述べ、同セッションを締めくくった。