海外カンファレンスに日本人がいないワケ
──BtoBマーケティングの先進国たる米国で、具体的に何がどう進んでいるのかを詳細に把握している読者はそれほど多くない印象です。
情報が圧倒的に不足しているからでしょう。海外のカンファレンスで日本人を見かけることはほとんどありません。ツールベンダーが主催するカンファレンスでは見かけますが、より濃い情報が集まるのは協会やコンソーシアム、アドバイザリーファームが主催するカンファレンスです。
──たとえばどのようなカンファレンスですか?
かつての米国のダイレクトマーケティング協会が主催する「DMA ECHO Awards」や、ABMのコンソーシアムが主催する「The Flip My Funnel Conference」、リサーチ&アドバイザリーファームのシリウスディシジョンズ(現・フォレスターディシジョンズ)が主催する「Sirius Decisions Summit」などが有名どころとして挙げられます。中でも最も濃い情報が得られるのはSirius Decisions Summitです。
──それはなぜでしょうか?
専従のアナリストがいるからです。彼らが1年間研究した結果をその場で発表するため、毎年最新の一次情報に触れることができます。一方ツールベンダーが主催するカンファレンスでは、自社製品の機能アップデートに関するプレゼンはあっても、マーケティングの一般論を説くセッションのスピーカーは外部から呼んでくるケースがほとんどですよね。
──確かにそうかもしれません。海外の協会やコンソーシアム、アドバイザリーファームが主催するカンファレンスで日本人が少ない理由を教えてください。
参加ハードルの高さは一因と言えます。Sirius Decisions Summitでは4日間ホテルに缶詰状態のまま朝から晩まで勉強するため、英語が理解できなければ厳しいです。また参加費だけで30万円近くかかる上、往復の旅費とホテル代を加味すると、総額100万円は下らないでしょう。自社のマーケティング担当者にそこまでの投資ができる日本企業はなかなかないと思います。
The Modelは“唯一解”ではない
──海外のマーケティングカンファレンスやボードミーティングに複数参加している庭山さんから、日本のBtoBマーケターが押さえておくべきトレンドを紹介いただけますか?
シリウスディシジョンズが考案したフレームワーク「デマンドウォーターフォール」は世界のスタンダードです。一般的なファネルが「認知→関心・興味→比較検討→購入」というフェーズで構成されるのに対し、デマンドウォーターフォールでは「見込み顧客の獲得→見込み顧客の選別→商談化→受注」というフェーズでファネルが構成されます。シリウスディシジョンズがフォレスターに買収されたため、現在は「レベニューウォーターフォール」という名称に変わりました。
デマンドウォーターフォールは2006年、2012年、2017年に改変が加えられましたが、世界中のマーケターが今なお活用しているのは2012年版です。それくらい出来が良かった。MQL(Marketing Qualified Lead)やSQL(Sales Qualified Lead)の考え方を広めた点においても2012年版は評価されています。
──なぜ日本ではデマンドウォーターフォールが浸透していないのでしょうか?
日本で『THE MODEL』が売れたことにより「The ModelがBtoBマーケティングの唯一解だ」という誤解が生まれているのです。もちろん『THE MODEL』は名著であり、優れたフレームワークだと思います。ただ、すべての企業に最適なフレームワークではありません。単価が低いビジネスアプリケーションを提供するスタートアップ企業にはぴったりです。だからセールスフォースはThe Modelで成功しました。
しかしながら、日本に多く存在する社歴50~100年のエンタープライズ企業は、製品単価が数千万円~数十億円と高いため、The Model向きではありません。そのことに気付かないままタクシー広告を出稿しても意味がないのです。タレントを起用してテレビCMを放映したところで、採用や株価に影響は与えるかもしれませんが、製品は売れないでしょう。売上をつくるためには、デマンドウォーターフォールを理解すべきです。