コミュニケーション活動それぞれの性質を整理して使い分ける
関:ここ数年はコロナ禍にあったこともあり、生活者や生活者を取り巻く環境に大きな変化があったと思います。その変化を捉えたときに、コミュニケーションのなかで意識していることを伺えますか?
佐藤:コロナに入ったときに、スーパーやコンビニなど含めて家庭用の缶の売上がとても伸びました。多分そのとき、お客様の頭のなかには「家でしか飲めないんだから少し贅沢なビールが飲んでみたい」といった想いがあったと想像できます。
その際選ばれたのであれば、それはつまり頭のなかの引き出しの1番取りやすい場所に「よなよなエール」のカードが入っていたということ。その状態をつくるコミュニケーションを考えることが大事なことに、コロナに突入したことで改めて気づかされました。
そして、いざという時に試してみたいと思わせるのは、やはりそれまでのコミュニケーション活動の蓄積なんですよね。具体的に活動を整理すると、たとえばオフラインイベントは手間がかかるので開催(接触)頻度は少ないものの、好意や購入意向を醸成するのに長けています。一方でSNSのコミュニケーションはその真逆で、毎日高頻度に挨拶できる代わりに、爆発的に好きにさせるには向いていないと分類できます。

佐藤:どちらかではなく、どちらのコミュニケーションも大事にしながら、続けていくべきだと考えています。また、コミュニケーションを展開する上では、「私たちが目指しているミッション」と「お客様のやりたいことやミッションに共感する気持ち」のすり合わせをしっかり行っていきたいと思っています。
ファンから「推し」への変化 余白を持たせることが鍵に
関:戸田さんは最近の変化として捉えていることや、意識していることはありますか?
戸田:今までは、お客様のために特別なことをする、いわゆる“おもてなし精神”がファンづくりの中心にあったと思います。ですが、今はブランド側とお客様の向きを揃えて一緒につくり上げる、協力してもらうことが大事になっていると思います。ときには、お客様に「助けてもらう」「甘える」がサービスになることもあるので、それらを試みるようになりました。
具体的には、広告のバナーをお客様に提案してもらったり、クリエイティブをいくつかの案のなかから選んでもらったり。そうした一緒に作ることが一番盛り上がると感じています。
佐藤:昔と違い、何を買うかに加えて「誰から買いたいか」の文脈が重視されるようになりましたよね。製品をつくっている企業のことを信用できるのか、ブランドの世界観に共感できるかがモノを選ぶ理由に入るようになったことで、一緒につくる、一緒に盛り上げてもらう“余白”が企業側にあることが大切なんじゃないか、と私も最近感じています。
戸田:好きなモノに対して使う言葉も、ファンから「推し」に変わっているじゃないですか。それもこうした変化が影響していると思うんですよね。
佐藤:確かに、お客様自身が「私このブランドのファンだから~」と言わなくなっていますよね。「ファン」は企業目線の一般名称だから、お客様目線から見たら「推し」を使う方がしっくりくるのかもしれません。
関:お二人ともありがとうございます。最後に一言ずつメッセージをいただけますか?
戸田:色々とお話ししましたが、私自身が重要だと思っているのは「無理に合わせない」ということです。必要以上に頑張るのではなく、自分たちが当たり前にしていること、大切にしたいことをお客様が「素敵だな♫」「一緒に大切にしたいな!」と思っていただくことが大事なのだと思います。
当たり前を続けていれば自然に推してくれる方はいるはず。ファンをつくるというよりは、推してくれる方々を「見つける」ことを意識してもらえると良いのではないでしょうか。
佐藤:お客様との関係構築に悩んでいるなら、一番は実際に会ってみるのが良いかもしれません。製品を支持してくれるのがどういう人たちなのか、お客様の解像度を上げることができると、どんなコミュニケーションが適しているか見えてくる部分もあると思いますので、まずは会うことから始めてみてはいかがでしょうか。