過去のテレビCMと比べ、最大14.5倍の指名検索量に
長:取り組みの手ごたえはいかがですか。
安室:クリエイティブについては、過去のテレビCMと比べて最大14.5倍の指名検索を獲得しています。
現在はNPIと指名検索を指標としていますが、副次的に好感度も同時に上昇する現象が起きています。インプレッサは、飲料や消費財などを含む全業種で2番目の指名検索数を獲得し、藤井隆さんのテレビCMと共にCM好感度ランキングでも上位ランクを獲得しました。

安室:また全国のディーラーでは、プリクラッシュブレーキシステム(追突の危険がある際、警報や自動ブレーキが作動するもの)の体験試乗を、自然にお客様にお勧めする流れが生まれ、体験するためのスポンジバリアが欠品することもありました(笑)
「これまでと異なる顧客層が来店している」「競合車が変わってきた」との声が、全国のディーラーから聞こえています。
長:顧客起点マーケティングを推進するにあたり、どのようなKPIを設定し、評価を行っていますか?
安室:大きく分けて「心理」と「行動」の2つのKPIを見ています。主に心理で見ているのは、安全訴求したことでイメージがどれだけ向上したのかを見ています。一方、行動には多くの指標があるのですが、9segs®以外にも、たとえばテレビCMでは検索数のリフトをKPIに。好感度はKPIとして見ることを止めました。
結果として、好感度アップを狙っていた過去のCMと今の安全訴求のCMでは検索量に大きな違いが見られます。お客様に響くCMだからこそ心が動き、検索をしているのでしょう。しかもただ検索量が増えただけでなく、効率化も進んでいます。戦略を変えた2023年4月と比較すると1検索リフトあたりの単価は半分ほどに。つまり効率が2倍になりました。

安室:また、実際、店舗にいらっしゃる新規のお客様の数も毎週のように2022年を超えているほか、CMの好感度も高くなっているというデータもあります。好感度アップを目指して作っているわけではないですが、結果として好感度もアップしていることがわかります。
こうしたことが積み重なり、販売台数も増え、前年を超える実績が出ています。
長:顧客戦略でWHO/WHATを決めると美しい理由は、色々な施策がそのWHO/WHATに基づいて作られるからということがあると思います。テレビCMも車そのものも、ディーラーにおけるデモも含めて、同じCX(顧客体験)を提供できれば、少ない予算で大手に勝つこともできるでしょう。
顧客理解は現場から始まる
長:安室さんから見た、顧客起点マーケティング実施前と実施後で、事業運営の変化はありましたか。
安室:これまではお客様よりも、上司の顔を見て決定することが多かったように思いますし、うまくいくかどうかはわからないまま進めていました。顧客起点マーケティングにシフトしたあとは、お客様の声に基づいて戦略・プランを考えていくので、確信をもってPDCAも回せるようになり、成功も失敗も含めて蓄積されています。
長:SUBARUさんが顧客理解をしっかり行い、それを施策にも反映させていることがよくわかりました。一方で私が他の企業からよく聞く課題として、顧客理解をするために調査を行っても、その結果をなかなか施策に活かせないといった声があります。安室さんならどうアドバイスしますか?
安室:1回現場に立てばいいのではないでしょうか。そうすればアイデアが浮かぶと思います。その際は、まず仮説を持ってから。やみくもにその場でお客様と話すのではなく、事前に仮説出しをすることが大切だと考えます。
9segs®を活用するときも同様で、まず自分なりの仮説をいくつか持った上でそれを確かめに行くというスタンスを持つようにしています。
長:最後に今後の展望をお聞かせいただけますか?
安室:変化の大きい世の中で、そのときに応じた勝ちパターンを見定めつつ、顧客理解も地道に進めていきたいです。
長:Howに縛られすぎないということですね。
安室:そうですね。やはり顧客理解が重要だと思います。
長:なるほど。SUBARUさんのマーケティング起点はお客様にあり、それに基づいてWHO/WHATの組み合わせを作るとHOWの効果が2倍にも3倍にもなる。安室さんのお話をうかがって改めてそう思いました。しかもSUBARUさんは定性・定量調査の両方でロジカルに数字で説明されているからこそ間違いのない設計図ができ、それに基づいて施策を実行しているため一貫性があり、ブレないのだなと。
安室さん、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。