+CELをつくり、届けるまで
工房系を好む層の嗜好に合ったブランド開発をするため、まずはディレクターの選定を行った。そうしたターゲットと接点を持ち、かつ事業理解度の高い人物として福田春美氏を起用した。それを元にチームも編成していった。
同社との意見交換の後、福田氏は20ページものディレクションブックを作成。その中で、カスタマーはこんな人ということや、こだわり家族の心理がどういうものかということが、チームメンバーにわかりやすい言葉や絵で説明されていた。また、こだわり家族が妥協したくないランドセルレーベルとして、ブランド名を「+CEL」と命名した。
ブランドロゴは、こだわり家族というターゲットを心地よく表現してもらえる人にということで、2022年10月に100歳になった染色家の柚木沙弥郎(ゆのき・さみろう)氏に依頼した。そして、型染めで+CILのロゴができ上がった。

ステッチワークや色の選定にこだわったほか、部材を新たに開発し、シンプルかつ上品ながら非常に存在感のある製品に仕上がった。これを、社内の若き職員たちが中心となってつくっている。

さらに、製品づくりにかける思いやファミリーが集う風景などを1冊にまとめた「+CEL Book」を顧客に配ったり、SNSで発信したり、ターゲットが共感を抱くような著名人のインタビュー記事をWebに掲載したりし、訴求を行ってきた。
初年度はターゲットが嗜好するであろう雑貨店やインテリアショップ、アトリエ、ギャラリーなど全国12カ所で協業して展示会を行ったという。展示会場では製品を並べるだけではなく、家族の風景がそこにあるかのようなディスプレイを行うなどの工夫を凝らした。
「製品のことだけでなく、ブランドのできた背景やストーリーを丁寧に伝え、時には若き工房の職人たちが展示会場に立ち、直接説明することも。来場が思い出に残るよう、お菓子のお土産なども用意しておもてなしをしました」(桒田氏)
新規顧客を獲得し、ランドセル事業の顧客も純増
+CELの予約数は目標以上となった。購買客は天使のはねとほぼかぶらず顧客を奪い合う形にならなかったので、ランドセル事業全体として顧客が純増したことになる。来季に向けて製品の改良や展示会のプランニングにも取り掛かっている。
+CELのロゴをあしらった親子でおそろいの室内履きや、母親が学校に持っていくバッグ、休日に家族みんなで着られるウェアなどをつくろうというアイデアも出て、発想が広がっている。そうした、家族の景色を彩るような製品も増やしていこうと考えている。来年度には、ギャラリー併設のライススタイル店舗「+CEL-Home Store」も東京都内に展開する予定だ。

「セイバンは、3年前まで天使のはねというランドセルの専業メーカーでした」と桒田氏。しかしこの3年間で若いメンバーがノウハウやネットワークを築き、今ではMONOLITHや+CELのような新たなブランドを立ち上げ、軌道に乗りつつある。桒田氏は最後に次のように話し、セッションを締めくくった。
「メディア制作や子ども園の運営など、ランドセルを軸に事業も広がっています。その若いメンバーたちが30~40代の中堅になった時には、セイバンのミッション通り 、お子さまとそのご家族の笑顔の創造を軸とした様々な事業営んでいる会社に成長させていけたらと思っています」(桒田氏)
