※本記事は、2023年11月刊行の『MarkeZine』(雑誌)95号に掲載したものです
【特集】「知らなかった」では済まされない、法規制とマーケティング
─ 生成AI活用時の「法的なトラブル」を避けるために知っておくべき観点
─ 「ステマ規制」導入で 何が変わる? 企業が押さえるべき ポイントと考え方(本記事)
─ マーケターが改正電気通信事業法に対応するために必要な3つのステップ
─ ステマ規制のポイント:法令順守と倫理観をセットで考え、判断できるか?
─ ステマ規制のポイント:インフルエンサーを尊重しつつ法抵触のリスクを最低限に!トリコの取り組み
─ 個人データ取得・活用の作法:法令順守の一歩先へ ブランドアセットに紐づく対応を
─ 個人データ取得・活用の作法:「データを提供しても良い」と思ってもらえる体験設計が鍵
─ プラットフォーマーに聞く①多角的に安全で健全な環境を整備し続けるMetaの取り組み
─ プラットフォーマーに聞く②TikTokが取り組み続ける「信頼できる広告環境」作りとは?
─ プラットフォーマーに聞く③安心安全な環境と快適な広告体験を届ける、LINEヤフーの方針
─ 「今まで同様にやっていきたい」という考えを捨てる時。ステマ規制への向き合い方と注意点
景表法と改正のポイント
―― 今回のステマ規制で注目された景表法とは、そもそもどのような法律なのでしょうか?
景表法は、元々は独占禁止法の特別法でした。公正な競争を確保する趣旨で、不当な広告を規制する法律だったのです。2009 年に消費者庁が発足したことにともない、それまでは公正取引委員会が所管する法律でしたが、消費者庁へと移管されました。「消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害する」ことはやめましょうという、消費者保護に重きを置く法律に変化した経緯があります。
景表法が規制しているのは、消費者保護の観点で大きく二つです。一つは景品に関する規制、もう一つは表示に関する規制。表示に関する規制は、薬機法や食品衛生法にも存在しますが、それぞれの法律で対象となる商品やサービスが限られています。一方、景表法の場合は商品・サービスに限定がないため、ほぼすべての企業が対象になります。非常に重要な法律と言えます。
――今回、景表法に「ステマ規制」が導入されたと話題になっています。具体的にどのような規制が行われたのでしょうか?
企業の作る広告がある程度の誇張表現をすることは仕方がないことであり、広く知られていることでもあります。そのため、景表法の条文でも「著しく優良・有利と誤認を与える表示を禁止する」と、「著しく」という言葉が入っています。
消費者も見ているものが広告だとわかれば、その点を加味して判断できるはずです。一方、ステルスマーケティングいわゆるステマは、広告であることがわからないため、消費者は商品選択における自主的かつ合理的な判断ができなくなってしまいます。これは景表法の趣旨にも反します。
実は、OECD(経済協力開発機構)に加盟している国のうち、GNP上位9ヵ国は、日本を除くすべての国で、既にステマに関する規制をしています。近年、特にSNSの発達にともないインフルエンサーによる活動が広がってきて、社会に与える影響も大きくなってきており、ステマ規制の必要性が高まってきました。こうした背景も踏まえ、今回の規制に至ったのです。
ちなみにこの規制は、法律自体が変更されたのではなく「指定告示」という形で規制が追加され、さらに消費者庁長官が運用基準という形で具体的に「これは景表法違反となりますよ」と規制内容を示しました。法律を改正するという方法を採らなかったのは、立法で(国会で)条文を変更するには法律の影響範囲が広く、時間もかかってしまい迅速に現在の問題に対応できないためです。また、規制の対象は広告事業者のみで、インフルエンサーは規制の対象ではなく、この点は将来の議論に委ねられることとなりました。