ケース・スタディが適している3つの場面とは?
何かを研究しようという時、ケース・スタディとの相性が良い場面は3つあります。1つ目は主たるリサーチ・クエスチョンが「なぜ」あるいは「どのように」を問うている場合、2つ目は対象である人々の行動を統制できない場合。そして3つ目は研究の焦点が過去ではなく、現在の事象である場合です。
これらの場面はばらばらではなく、基本的に結びついています。研究でよく用いられてきた理由は1つ目です。あの企業は「なぜ」成功したのか、あるいは「なぜ」失敗したのか、その成功や失敗は「どのように」導かれたのか。
こうした問いに、もちろんケース・スタディは適しています。ただしこの理由だけであれば、サーベイや研究室実験を用いることもできます。サーベイでは、いわゆるアンケート調査を行います。研究室実験では、条件をより特定しA/Bテストのように判定を行います。
それゆえケース・スタディでは、2つ目や3つ目の場面も重要であることに留意する必要があります。すなわち対象の統制が方法論的にも実質的にも難しい場合や、その状況が現在進行形の場合、ケース・スタディはより相性が良くなるわけです。
ケース・スタディにおけるデータの重要性
続いて重要になるのは、データの収集です。ケース・スタディでは大きく6つのデータ・ソースとして、文書、アーカイブ、インタビュー、直接観察(観察者が直接的に観察する方法)、参与観察(観察者が調査対象とする社会や集団に加わり観察する方法)、物理的人工物を用いることができます。さらに、近年ではインターネット上のデータも重要です。
これらのデータ・ソースは、必要に応じてケース・スタディ・データベースとして公開される必要があり、この点が研究の客観性や厳密性と結びつきます。
このデータ・ソースの公開は、近年ではサーベイや研究室実験においても重視されるようになっています。ケース・スタディは、発見の内容が恣意的になりがちだと言われてきました。これに対し、参照したデータをすべて公開できるのならば、主張の客観性や厳密性を示すことにつながります。

収集されたデータは、理論的命題に依拠すること、データをゼロから処理すること、ケースを記述すること、そして競合説明という大きく4つの点から分析し、検討することができます。理論的命題に依拠することや、競合となる仮説を加えて説明を試みることは、研究としては最も一般的です。ケース・スタディを通じて、理論的命題を刷新することや、競合仮説を棄却することもできるでしょう。
同時に、グラウンデッド・セオリー(インタビューや観察の結果を文章化し、コード化してデータを作る社会調査手法)のようにデータをゼロからコーデングして処理することや、よりシンプルにケースの記述に徹することもできます。シンプルなケースの記述は、ケース・スタディやケース論文という言葉から連想されるイメージに一番近いかもしれません。