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ためになるAIのお話。

みんなが当たり前にAIを使う時代に人間だけができることを考える【アドビ・清水仁志×博報堂・藤平達之】

スキルの有無でクリエイティビティが制限されなくなる時代

藤平:ところで、僕かなり絵が下手なんですけど、Adobe Fireflyなどの生成AIをうまく使えれば、「うまく絵を描く」という自分ができないことが、形を変えてできるようになる可能性がありますよね。

 ディレクションのスキルやインプットは必要だとしても、AIがある状態で絵を描くことと出会ったら、もしかすると「自分は絵が下手」と思わずにいられたかもしれない。自動運転技術も似たようなことなのだと思いますが、そういったできる/できないの制約から解放してくれるのもAIである。ならば、それは生まれてきた1を一定の数値まで引き上げてくれるもの、とも捉えられそうです。

清水:そうですね。少し前まで、クリエイティビティやアートの領域における「クリエイティブな人」というのは、スキルとして描く力があればこそでした。僕もそうですが、そのスキルがない人たちは、できない側=クリエイティブではないと思われがちな側にいたわけです。そうではなく、「実はみんな素晴らしいクリエイティビティを持っている」という可能性に気づいていくとよいなと思っています。Adobe Fireflyをはじめ、クリエイティブ関連の生成AIがそのきっかけになっていくとよいな、と。

藤平:AIで絵を描く授業とかが図工の代わりに始まってほしいですね。それは、スキルの授業のようで、実は人間の可能性を拡張するための授業なんだと思います。

清水:既に活動が進んでいるんですよ。教育現場で生成AIを学ぶ機会が作られていて、アドビも一部支援したりしています。たとえば、Adobe Fireflyで「10年後の自分」の姿を制作・発表して、未来を考える授業の事例などがあります。生成AIを使うスキルは、大人も子供も補えるようになっているので、先の話にあったとおり、日頃何を考えて、何を感じているかというインプットの部分が大事になるというのはその通りだと思います。

 1つシェアすべき情報として、Adobe Fireflyを含む生成AIの登場により、既にクリエイティブの現場でも色々な変化が起きていると聞きます。広告の現場でも、従来はクリエイターがつくることがほとんどだった映像の絵コンテを、最近はプランナーが自ら描いたり、時には営業の担当者が描いたりすることもあるらしいですよ。

藤平:そうなると、やっぱり0→1のところが試されてきますね。それと同時に、いわゆるリニアなバケツリレー的なプロセスが一変する可能性もある。たとえば、クライアントさんがそのままコンテの制作までは内製してしまうみたいなことも当たり前になるのかもしれません。

清水:そうですね、マーケターがマーケティングで実現したいと考えている戦略やその構想を、よりクリアに周囲に伝えていく時にも生成AIは有用だと思います。クリエイティブとかデザインのイメージを伝えるための翻訳力が足りない場合、Adobe Fireflyのようなツールを使えばそこを補うことができるはずなので。最終的なアウトプットに至るまでの滑走路としても使っていただきたいです。

ピカソ時代から学ぶAIへの向き合い方と創作活動の本質

清水:似た話になるんですが、7月に出張でロンドンに行った時、テート・モダンという美術館に行ったんです。その時ちょうど「CAPTURING THE MOMENT」というタイトルの、PaintingからPhotographyへの時代的な移り変わりに着目した企画展が行われていたんですね。これが非常に面白くて。

藤平:PaintingとPhotographyの対比は前回の深津さんの対談でもたとえとして出てきました。

清水:そうなんです。生成AIにも共通するところがあるなと思いながら見ていたんですが、展示されていたピカソの名言が印象的で。要約すると「写真の登場によって、絵画での表現はむしろ自由になった。だからこそ画家(Painters)は、新しく手に入れた自由に利を得て、これまでと異なるアプローチをしていくべきではないか?」というニュアンスの言葉でした。それまでの絵画には実写性が求められていた中、写真の登場によって、絵画に別の価値が求められるようになった。そんな時代背景のもと、ピカソが「リアルさ」を追求した結果生まれたのがキュビズム的な表現だったようです。

 つまり、新しい表現技術が登場した時に、それと「争う/争わない」という視点ではなく、それによって生じた環境変化を冷静に捉え、むしろ自分の創作スタンスをアップデートする機会と捉える。この重要性が象徴されているのがこの言葉で、ピカソの時代における「写真」も、今の時代における「生成AI」も、本質的には同じことなのかもと思ったところでした。

藤平:そういう変化と向き合って、乗り越えて、新しい創作活動が生まれていくんですよね。技術の進化があっても、結局はその人にしかできない創作やディレクションをしていくのが、人間が持っているクリエイティビティなのだろう、そしてそう信じないといけない、そのことをもっと人間同士で議論しないといけないというのが今日の学びでした。

清水:そうですね。私たちアドビも、ツールとしてのAdobe Fireflyやそれを使いこなすためのスキルセットを提供していくだけでなく、「人間らしさ」に思いを巡らせ、それを全肯定し続けながら、人々がクリエイティビティを楽しむこと自体を支援・応援する姿勢をこれからも大切にしていきたいと思います。

今日の「シンプルにためになった」ポイント

・「AIはあくまでCo-pilot(副操縦士)」であり、対立/主従ではなく掛け算して力を発揮する関係

・「AIを使いこなす能力」はもちろん「自分の感受性を研ぎ澄ましておくこと」も重要

・そのために「記録をする」「一回性の高いものに触れる」ことが大事(かも)

・クリエイティビティとはスキルの有無ではなく、想いの有無になる(かも):ピカソを見習うべし

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MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

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MarkeZine(マーケジン)
2023/12/20 09:00 https://markezine.jp/article/detail/44254

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