2023年は、生活防衛意識が高まった1年に
2023年はアフターコロナ元年、様々なイベントが解禁になり感染症に対する意識も大きく低下し、以前の生活に戻りつつあります。一方で、コロナ禍を通じて変化した人付き合いやリモートワークなど一部のライフスタイルは定着しました。コロナ禍の初期に一部の識者が言っていた「コロナ禍が終わっても以前の風景に完全には戻らない」という予想が現実になったように思います。
さらに、コロナ禍以降の生活者に大きな変化をもたらしたものとして、家計の負担増があげられます。特に2023年は、2022年から続く原油・原材料価格の高騰による値上げラッシュや、今後の増税や社会保険料の負担増などの先行き不安から、生活者の生活防衛意識が非常に高まった1年とも言えるのではないでしょうか。
こうした意識の変化は、生活者の買い物行動に大きな変化をもたらしています。この記事では、コロナ禍以降の買い物行動の変化を把握するとともに、買い物を支える小売業界がその変化に対応するためのヒントを、買い物アプリに蓄積したビッグデータから探りたいと思います。
コロナ禍で加速した小売店舗の小商圏化
店舗にとって、来店を見込める生活者が住んでいるエリアを商圏と言います。業態や企業によって商圏の定義は様々ですが、たとえば「店舗からの距離」や「売上の〇%を占める顧客が住んでいるエリア」などで定義します。そして近年、その商圏は小さくなってきていると言われており、この現象は“小商圏化”と呼ばれています。
小商圏化の原因は、人口減少・高齢者割合の増加・オーバーストア・ECの普及などで、その変化は長期的で緩やかなものでした。しかし、コロナによる急激な生活の変化は、短期的で急激な小商圏化をもたらしました。この急激な変化はデータにも表れています。
リサーチ・アンド・イノベーションが運営する買い物アプリ「CODE」では、月間30万人のユーザーが日々の買い物を登録しています。この買い物データは、ユーザーが登録した自宅の郵便番号と買い物をした店舗の住所から自宅から店舗までのおおよその距離を推定することもできます。その推定距離を使って、買い物がどのように変化したかを分析しました。
なお、都心と地方など、エリアによって主要な交通手段や生活圏自体も異なるため、全国一律に商圏を分析することは難しく、今回は一都三県(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)に絞って分析をしました。
図表1は、スーパーマーケット・コンビニ・ドラッグストアの買い物について、自宅から店舗までの距離別の買い物回数構成比の経年変化をグラフ化したものです。コロナ禍前の2019年からどのように変化したかを確認してみましょう。
2019年から2021年にかけては、自宅から1km未満の“近場での買い物”の割合が増加する一方で、自宅から5km以上の”遠出・出先での買い物”の割合は減少しました。これはコロナ禍の外出自粛によるテレワークの増加や旅行・レジャーの減少により、生活者が自宅から遠い店舗を使う機会が減少し、自宅近くの店舗を使う機会が増えたものと考えられます。つまり、コロナ禍という環境の変化が小商圏化を急激に加速させたというわけです。
2022年以降は外出自粛の緩和により2019年の水準に戻りつつありますが、コロナ禍が明けた今年も、まだ戻りきってはいません。コロナ禍が明けても戻らないライフスタイルの変化が、今も買い物に影響していると考えられます。
さて、このグラフを細かく見ていくと、「コロナ禍で買い物機会の増減の明暗を分けた距離は3km」ということもわかります。つまり大別すると3km未満の買い物機会は増え、3km以上の買い物機会は減ったということです。そこで次の章では、「3km未満の買い物」と「3km以上の買い物」に分けて、買い物の中身がどのように変化したのかを見ていきます。