田中先生のあとがき
今回の対談は、内田和成先生の編著となる『イノベーションの競争戦略: 優れたイノベーターは0→1か? 横取りか?』(2022、東洋経済新報社)を巡って行われた。イノベーションという、よく話題になるトピックでありながら、我々が実はよく理解できていない概念について、内田先生から有用なインサイトを数多く教えていただくことができた。

イノベーションは、技術的にまったく新しいものだとか、画期的な発明のことだ、くらいにしか我々は理解していなかったのではないだろうか。内田先生の研究チームは、1,000件あまりの事例を集め分類する作業を通じて、イノベーションについてどのようなことが言えるかを検討してこられた。
内田先生たちの慧眼は、最終的に顧客の行動変容を伴わなければ、イノベーションが社会に定着しない、という点にある。たしかに、かつての「キャプテンシステム」のように、顧客の行動が最後に伴わなかったばかりに失敗してしまったイノベーションも数多い。「ルンバ」はこのトライアングルを形成し、見事に私たちの掃除行動を変えてしまったイノベーションの一例である。
内田先生たちのこの仕事はイノベーション研究にあらたな光を当てるだけでなく、実務家の仕事にとって重要な意味を帯びている。本書を通してイノベーションを実現し、持続させるために何が必要かを理解できるようになるのである。