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【特集】2024年の消費者インサイト

電通消費者研究プロジェクトDDDより 「2024年の欲望トレンド」を発表

「映え、盛りの常態化」の先に発動した新たな欲望

──「2024年の欲望トレンド」について、まずは概要からお聞かせください。

佐藤:今回「2024年の欲望トレンド」としてご紹介するのは次の6つです。2024年、日本人の欲望は、おおよそこの6つに集約されていくであろうというものを抽出しています。

1.リアリティ(リアルっぽさ)への収斂

2.裏ブラックボックスで表シンプル

3.メタ(俯瞰)というカタルシス

4.推し活経済圏の拡張

5.本音に応えてくれる

6.手段のエンタメ化

──では、1つ目の「リアリティ(リアルっぽさ)への収斂」からご説明いただけますか。

佐藤:「リアリティ(リアルっぽさ)への収斂」とは、非日常のリアル化と日常のアンリアル化が進み、「作為的なリアリティ」に人々の生活や欲望が寄っていくことを表した言葉です。2023年は、非日常と日常が交錯するところへ、大きな引力が発生していたと見ています。ここで言う非日常とは、1年に数回しかないハレの日や本来の自分を拡張させた“映える”自分で、日常は言葉のとおり本来の日常生活のことを指します。方向性としては、【(1)非日常から日常に近づくトップダウン型】【(2)日常が非日常に近づくボトムアップ型】【(3)非日常であったものが日常になるブリッジ型】の大きく3つがあります。

非日常から日常に近づくトップダウン型

佐藤:昨今、人々の生活に“映え”や“盛り”が常態化していますが、2023年から「逆にその映えとか盛りってイケていないんじゃない?」というふうに人々の価値観が少し変わりました。自己ブランディングも「自然っぽさ」「普通な感じ」「頑張っていない感じ」のほうに向かっています。

 この代表例がフランス発のSNSアプリ『BeReal(ビリール)』です。BeRealは、通知が来たら2分以内に自分が今何をしているかを撮影し投稿しなければいけないというルールを作ることで、盛りも加工もない“日常”がユーザーにシェアされていくという世界観のもと広まりました。ですが、蓋を開けてみるとそこは日常を装った映え、言わば日常の上澄みが集まる場所になっていたんですね。これこそ、まさに作為的なリアリティです。

 我々はこの欲望の背景にあるのは「映え疲れ」だと考えています。映えや盛りが最優先される状況がこの数年続いてきましたが、映えにも盛りにも時間やお金のコストがかかります。映えの常態化にも限界が見えてきたのでしょう。

日常が非日常に近づくボトムアップ型

佐藤:続いて、日常を非日常に近づけるボトムアップ型です。新型コロナウイルスが五類化され、ようやく堂々とコロナ禍での欲を発散できるかと思ったのに、インフレや円安のせいで思い切り遊べない……。2023年はそんな「アフターコロナなのに」というフラストレーションが溜まりに溜まっている様子がうかがえました。

 日常が日常のまま続いていくということには、相当なフラストレーションが溜まります。そこで起きたのが、日常の延長線上にハレを発見しようとする欲望です。ローソンの『盛りすぎ!チャレンジ』は、日常生活のインフラであるコンビニの中にハレをエンカウントさせた好例でしょう。少し贅沢なおにぎりとして『ぼんご』が大流行しているのにも同様の理由があると考えます。

 ちなみに、DDDではこれらを「新メリハリ消費」と呼んでいます。旧来のメリハリ消費とは、日常で節約しながらたまの非日常で思い切り発散するというものでしたが、新しいメリハリ消費とは日常生活の中に小さな楽しみを見つけられるよう、消費をリフレーミングさせていくものになると考えています。

非日常であったものが日常になるブリッジ型

 最後はブリッジ型ですが、これは日常と非日常の両サイドにリアリティ(っぽさ)という橋をかけるものです。ブリッジの役割を果たしている好例が、2023年の大ヒットと言っても過言ではない『chocoZAP』です。価格や時間、生活スタイルなどの点で、消費者の大多数にとって従来のジムは日常にはなり得ませんでしたが、chocoZAPは、価格・服装・時間・場所・生活スタイル・ジムを利用する目的など、様々な点からジムというものを日常でも使えるものにしてくれました。つまり、多くの消費者にとって非日常だったものを日常にする橋をかけてくれたと見ることができます。

 総論として、非日常でも日常でもなく、その間にある「リアリティっぽさ」を求める欲望が2024年はより強く発動されるのではないかと考えています。

新規開発やマーケティングのチャンスあり。2024年に注目の欲望2つ

日常生活に溶け出した科学という魔法

佐藤:2つ目の欲望トレンドは「裏ブラックボックスで表シンプル」というものです。SF小説作家のアーサー・C・クラーク氏が60年ほど前に、「高度に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」という言葉を残しているのをご存知ですか? 2023年は、まさにそんな時代の到来を感じた年でした。

 注目は、やはりChatGPTなどの生成AIです。我々が接する表画面、つまりUI/UXはチャットという極めてシンプルなものですが、開発者ですら説明できない事象が起こるくらいですから、我々には裏にある仕組みはまったくわかりません。ChatGPTがもたらした魔法のような体験や感覚が生活に染み出し、「裏は複雑でよくわからないけれど、UI/UXはシンプルなもの」をよしとする価値観が表出し始めているのではないかと仮説を立てています。

 たとえば、ロート製薬の『メラノCC』シリーズは2023年スキンケアのカテゴリーで大ヒットを記録しました。メラノCCはPowerPointで説明書きをしているようなパッケージが特徴的で、このシンプルな効能説明が肝だったのではないかと考えています。女優やモデルを起用してイメージで訴求するブランドが多い中、シンプルな効能説明の裏にある高度な開発技術を嗅ぎ付ける消費者の様子がうかがえます。

ロート製薬『メラノCC』シリーズの化粧水
ロート製薬『メラノCC』シリーズの化粧水

 加えて興味深いのは、裏にブラックボックスがあることを“匂わせる”という方法論が既に確立されていることです。誰がこの方法論に気づいたのかはわかりませんが、2023年は『君たちはどう生きるか』『THE FIRST SLAM DUNK』『VIVANT』などの映像作品しかり、ヒットしたコンテンツの多くにこの方法論が用いられていました。

 歌手のAdoさんもこの権化と言えますね。彼女の生まれ持った天才的な歌唱力と努力、それを引き上げるプロデューサーなどの制作陣、そして顔を表に出すことなく彼女をここまで人気にさせた作戦……裏に相当なブラックボックスが見えます。素晴らしい歌唱だけが表で見られるからこそ、裏を想像してしまうわけです。

 そして、ここがポイントなのですが、「裏ブラックボックスで表シンプル」というこの欲望には、タイパを求める消費者の意識があると我々は考えています。裏に膨大な知恵と工夫が隠されているということは、つまり、そこに専門家や研究者の膨大な時間が費やされているということ。消費者は、そんなモノなりサービスなりに“タイパ性”を見出しているのではないでしょうか。

ビジネスチャンスも多い「メタというカタルシス」

佐藤:3つ目の「メタというカタルシス」は、人々の中に「メタ=俯瞰で物事を見る」という心構えが定着していること、ゆえにメタ視点で様々なニーズが広がっていることを表しています。先になぜこうしたトレンドが出てきているかを説明すると、多様性や自由度の幅がこの数年でかなり広くなり、1つの正解を示すのが難しくなったことが大きく影響していると思われます。確実なものがない状況においては、メタ的に多様な情報を収集すること、それだけで安心感を得られたり、カタルシス効果を得られたりします。その結果、従来の価値観にとらわれず、物事をメタ的に楽しむという欲望が表出してきているのかもしれません。

 アルコール飲料の領域はかなりメタ的に多様化が進んでいますよね。サントリーの『ビアボール』しかり、アサヒビールの『スマドリ』しかり、アルコール度数という枠組みを解放して、ノンアルコールユーザーもアルコールユーザーと同居できるよう提案しています。この欲望が表れていると思われるトレンドは他にも多数あり、これからもいろいろなビジネスチャンスが生まれてくるだろうと注目しています。

 ここまでで紹介した3つが、6つある中でも特に大きな欲望トレンドです。

次のページ
消費者の欲をかきたてる3つのキーワード

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MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

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MarkeZine(マーケジン)
2024/01/26 14:59 https://markezine.jp/article/detail/44538

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