財布の紐を緩める強烈な動機が必要
──2024年、若年社会人の消費インサイトはどのようになると予測しますか?
塩沢:ほかの年代と比較して、より一層対面型の消費傾向が強まると予測します。具体的な消費先としては、外食やショッピングの割合が増えていくのではないでしょうか。また、コロナ禍に普及したフードデリバリーや動画サービスなどの利用動向は、引き続き変わらず推移していくと思います。それらの利便性はこの年代が強く感じているはずですから。ただ、サービス自体はコモディティ化が進むため、ここから利用が伸びるかと言うと横ばいの予想です。
──若年社会人向けの広告コミュニケーションやマーケティング施策を実行したい広告主および事業会社は、消費者インサイトを踏まえてどのような観点を持つ必要があるとお考えですか?
下田:取捨選択する機会が増えて選ぶ側が賢くなっていますから、まずは選ばれるために自社のサービスを磨くことが大前提だと思います。あらゆる市場でコモディティ化が進む今、標準的な機能だけを兼ね備えたサービスやコンテンツは、ユーザーに選ばれなくなっていくでしょう。
加えて、社会人若年層が1日あたりに触れる情報の量は膨大です。そんな中でマーケティングのポイントとなるのは間違いなくクリエイティブだと思います。適切に情報を伝えるクリエイティブはもちろん、生成AIなどを用いてクリエイティブに表現の幅を持たせることも重要です。そのあたりの技術力が勝負を分かつのではないでしょうか。
一方で、その層にぐっと刺さるアプローチもなければ選ばれづらくなっているのも事実です。各社のサイトや口コミを入念にリサーチした上で、明確に「このブランド/商品が良い」「このブランド/商品でなければダメだ」と思える強烈な動機がないと、社会人若年層は財布の紐を緩めません。良くも悪くも騙しにくくなっていると言いますか、ごまかしや小手先のテクニックが通用しなくなってきている実感はありますね。
私も塩沢と同様、社会人若年層の当事者ですが、Web広告を見たその場でクリックして何かを買うような消費行動はほとんど起こさないです。とことん調べた上で、心から「欲しい」と思えるものを選んでいます。「何となく知っているから」という動機では選びません。そういう意味では「ブランド自体をいかに好きになってもらうか」も重要と言えます。ブランディング活動がより大きな意味を持つようになるのではないでしょうか。
最近はOTT(Over The Topの略。インターネット回線を通じてコンテンツを配信するストリーミングサービスのこと)が普及して、企業規模を問わずテレビ媒体に広告が出せるようになりましたから、リッチな表現でブランド自体への好意や共感を呼ぶためのアプローチも有効でしょう。
最後はやはりデータです。インサイトを捉えるにあたり、データが不可欠であることは言うまでもありません。マーケターは自社のデータだけでなく、外部のデータも参照しながらインサイトを捉えたほうが良いと思います。クレジットカードの決済データもその一つですし、改正銀行法によって銀行のデータが世に出る未来も近いはずです。
外部データの調達にはある程度の費用を要しますし、調達しただけですぐ売上につながるわけではないため、最初は投資しづらいかもしれません。ただ、金融系のデータを経年で見ると消費傾向の変化が如実にわかりますから、どこかのタイミングで投資をして「自社のポジションが適切なのかどうか」を俯瞰して見てみることをお薦めします。
