選択肢の多さがかえって悩みに。全体戦略とのバランスが取れない広告主も
MarkeZine編集部(以下、MZ):ウィングリットはインフルエンサーマーケティングの専門的な支援に実績をお持ちですが、近年のこの領域で広告主企業からどのような悩みを聞くことが多いでしょうか。
安藤:「この商品をSNSで話題化して売上を上げるにはどうすればいい?」というオープンクエスチョンをいただくことが増えています。
一言でSNSマーケティングといっても、YouTubeやTikTok、X、Instagramと多くのプラットフォームがあり、投稿フォーマットも多岐にわたります。またインフルエンサーも日に日に増えています。そんな中、広告主にとっては「何を、誰に、どんなメッセージで発信するべきか」の選択が難しく、総合広告代理店を通じてインフルエンサーに依頼しても費用対効果が見合わないケースもあるようです。
また、広告代理店の支援を受けながらインハウスで運用しようと考える企業もありますが、インフルエンサーのリストやキャスティング案のみの提供、ツールのみの支援というケースも多いのです。これでは施策全体を俯瞰できません。
インフルエンサー施策やSNS マーケティングは、マーケティング施策全体に組み込んで企画することが必要です。全体戦略がないままに施策を打つと、他のプロモーションとのバランスが取れなかったり、非効率な発信に終始してしまったりする懸念もあります。
そこで、多岐にわたる要素を解像度高く把握し、戦略のプランニングからインフルエンサー施策の具体的なアクションまで落とし込むことが求められています。我々のような専門的な支援会社に広告主、代理店の双方からご相談が集まるのも、そのような理由なのではないでしょうか。
インフルエンサーマーケティングに欠かせない「四つの要素」とは
MZ:インフルエンサーマーケティングを成功に導くために、広告主やパートナーが設計する際の視点として、どのような要素が求められると考えますか?
安藤:ウィングリットではマーケティング戦略全体の中で、インフルエンサー施策がどの目標に寄与し得るのかという「戦略」を立て、「キャスティング」とそれに紐づく「コンテンツディレクション」を行い、ブーストさせるための「広告」を打つ。以上、四つの要素をインフルエンサー施策に落とし込んでいく必要があると考えています。
最も大事なのは「戦略」です。そもそものKGI、マーケティングゴールをきちんと定めた上で、そこに紐づくKPIを策定します。コンテンツや投稿タイミングなどの施策設計はその上にこそ積み上がっていくものです。単にエンゲージメント数だけを追ってもマーケティング全体の中で何の意味を持つのかというところまで落ちてこないと、PDCAを回せません。
PR対象となるブランドの商材領域、事業領域によっても戦略は異なります。たとえば美容商品やガジェットの場合、消費者の関与度は高く、購入を失敗したくない気持ちを強く持っています。同じ高関与度層の購買やレビューを参考に購入の意思決定をしていく傾向があり、その商材領域において影響力や発信力の高い人たちをいかに味方につけて話題化させていくかがマーケティング全体の中でも重要なファクターです。
一方、飲料や食品などの商材領域に関して消費者の関与度は比較的低く、「あのインフルエンサーがおすすめしているから」と気軽に試すケースも考えられます。商材領域やマーケティングフェーズごとに、どんなインフルエンサーを起用して、どんなコンテンツ、メッセージを発信していくべきかは大きく変わってくるのです。
また、コミュニケーション全体での効果最大化を狙うには、インフルンサー施策以外の広告施策との連動も重要です。テレビCMや運用型広告では、PGC(プロフェッショナルジェネレーテッドコンテンツ)でブランドとして深く知らせるべき商品のバリューとファクトを伝えます。絶対的な認知の量、接触回数の量を担保していくのです。そして、インフルエンサーのコンテンツや口コミ、つまりUGC(ユーザージェネレーテッドコンテンツ)によって話題感の醸成や好感をともなった認知を狙います。
キャスティング/ディレクションは「人」と「情報」の2軸で大きく変わる
MZ:キャスティングではどのような視点が求められますか?
早坂:SNS全体においていえることですが、インフルエンサーがどんなコンテンツを発信し、どのように受容されているのかを解像度高く把握すると、「パーソナリティ(人)」と「インフォメーション(情報)」という2つの軸が見えてきます。
パーソナリティ(人)軸に位置するのは、人となりやキャラクターが支持されているインフルエンサーです。熱量の高いファンがおり、特定の企画にとどまらず活用の幅が広いことが特徴です。
一方、インフォメーション(情報)軸には、機能的な訴求やコンテンツ自体の面白さなど、情報自体に魅力を持ったインフルエンサーが位置します。情報を生活に役立てるという視聴態度で見られるケースが多いですね。
これらの軸で整理することで、課題感に応じたキャスティングが可能になります。
MZ:コンテンツディレクションはどのように設計していくべきものでしょうか?
早坂:コンテンツディレクションはインフルエンサーに紐づくもので、キャスティングと切っても切れない関係にあります。
たとえばパーソナリティ(人)軸でいうと「あのインフルエンサーが使っているなら私も」「発信を毎日追っているからPRも楽しく見られる」といった訴求の仕方があります。
インフォメーション(情報)軸のコンテンツを作るときも、訴求したい情報を“全部盛り”にするのか、インフルエンサー視点で言い換えて一点突破をめざすのかを踏まえてディレクションしていく必要があります。
早坂:まずは仮説を立てて設計し、発信した上でどのコンテンツがどれだけ反響があり、KPIに影響したのかをレビューします。キャスティングやコンテンツについてもPDCAを回し、それによって施策全体を綿密に設計していくのです。
広告を打つことで担保できることもある。費用対効果をより高める工夫
MZ:インフルエンサーマーケティングの要素としての広告の役割とは何でしょうか。
安藤:広告は、リーチをブーストさせ、インプレッションを担保するために必要な施策で、大きく3つの役割があります。
1つ目は、他の広告施策と効果を比較するために、インプレッションやリーチなどをある程度有意なところまで拡大することです。広告のコントローラブルな特性を活かせば、統一指標を計測することができます。
2つ目は、マーケティングKPIに必要なリーチやインプレッションを効率的に獲得することです。これらはプラットフォームごとのアルゴリズムにも左右されるため、フォロワー数に単純比例して伸びるわけではありません。最低限のリーチやインプレッションを効率的に獲得するためには、やはり広告が必要になってきます。
3つ目が、インフルエンサーのオーガニック配信だけでは届けきれない層に向けてターゲティングし、配信するためです。インフルエンサーの発信したコンテンツをいわゆる第三者配信と呼ばれる手法で配信し、リーチやインプレッションを担保します。広告を効果的に使うことでSNS上のUGCとの相乗効果が生まれ、PGCよりも広告の再生回数や単価が低く抑えられます。結果として費用対効果は高くなるのです。
美容・化粧品領域の商材で初動売上がブランド歴代記録を達成
MZ:先述の4要素から、成功した事例を具体的に教えていただけますか。
安藤:美容・化粧品領域の商材で、ブランド史上No.1の初動売上を出した事例があります。この商材は新商品として市場に投下されるタイミングでした。全体的な認知と商品への関心、2つの戦略が必要と考え、前述の「パーソナリティ(人)軸」「インフォメーション(情報)軸」の両軸を走らせました。
「パーソナリティ(人)軸」では人気インフルエンサーを総なめするようなキャスティングを行い、「人気のある人みんなが使っている」というイメージを作って好感をともなった認知アップを狙いました。
「インフォメーション軸(情報軸)」では、商品自体の理解を促すため、機能訴求・理解促進できるコンテンツを発信するプランを立てました。情報解説型のコンテンツを定常的に発信し、いつ検索しても口コミが出続ける状態を作ったのです。
両軸でアプローチする戦略が当たり、商材はカテゴリー内の代表的なポジションを獲得し、現在も定番商品としてドラッグストアなどで販売されています。
日々変化するインフルエンサーマーケティング キャッチアップし続けているからこその強み
MZ:今後インフルエンサーマーケティングに携わる読者に、アドバイスをお願いします。
安藤:これまでお話したように、インフルエンサー施策単体でマーケティングにおける効果を評価するのは難しいものです。
安藤:施策全体の中でのKGI、それに紐づく主要なKPIに対して、どのようにアプローチしていくことが必要なのか。また、インフルエンサー施策がプロジェクトのどの領域に寄与し得るのかというところを見定めた上で戦略を立案していかなければなりません。
戦略、キャスティング、コンテンツディレクション、広告という4つの要素をすべて支援できるパートナーと一緒に取り組んでいくことが重要だと考えています。
加えて、インフルエンサーマーケティングの最適解は変わり続けていきます。プラットフォームもアルゴリズムもフォーマットも日々新しくなっていくからです。情報のキャッチアップは常に求められます。
ウィングリットは4要素すべてをカバーした支援が強みであり、日々情報を追うことでアップデートしています。大手のクライアントとのパートナーシップで培った知見や経験をさらに戦略に活かしていきたいと考えています。
今後はSNS、インフルエンサーマーケティングに限らず支援できる幅をより広げ、時代に求められるマーケティング施策全体でさらなる価値貢献をしていきたいですね。
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