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長祐氏と考える顧客理解と顧客戦略

アサヒビール社長 松山氏に聞く、「お客様の心を動かす」ための“顧客起点マーケティング”


 デジタル時代への突入により、コミュニケーションが多様化する中、マーケティングの手法も乱立している。一体、何が変わったのか、また変わらない本質は何なのか。本連載では、P&Gジャパン執行役員を経て、現在M-Force代表を務める長氏が、経営者やCMOなど、マーケター業界の最前線で活躍する人物を訪ね、「施策(HOW)の効果を飛躍的に伸ばすWHO/WHATの設計方法」についてディスカッションを行い、「顧客戦略」の考え方や実践例などを探っていく。今回はアサヒビール代表取締役社長 松山氏を迎え、次々とヒットを生み出す裏側にある、同社の顧客起点マーケティングについてうかがった。

お客様を真ん中に。アサヒビールのマーケティング組織改革

長:今回は、アサヒビール代表取締役社長 松山一雄さんをゲストにお迎えしました。松山さんは2023年に代表取締役社長に就任する前には、マーケティング本部長などを務められています。

 マーケターのキャリアにフォーカスすると、30代の頃に米国ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院でMBAを取得後、現P&Gジャパンで活躍されたとうかがっています。これらの経験は、松山さんのマーケティングに大きな影響を与えているのでしょうか。

松山:マーケティング面だけを考えれば、ケロッグの2年間、そしてP&Gジャパンの6年間がベースとなっています。ただし現在の経営者の立場となると、海外勤務や現場勤務も含め、他業種で経験したファイナンスや営業など、すべての経験が役に立っています。

アサヒビール株式会社 代表取締役社長 松山 一雄氏
アサヒビール株式会社 代表取締役社長 松山 一雄氏

長:アサヒビールのマーケティングについてうかがいます。松山さんは2018年にアサヒビールに入社後、どのようにマーケティング改革を行ったのでしょうか。特に「顧客起点」での取り組みについてお聞かせください。

松山:エンドユーザーであるお客様を真ん中に考えるように徹底しました。それまで酒類業界に携わった経験がなかった私が一人の消費者として見たとき、当時のアサヒビールは真ん中にお客様がいないのではと感じたのです。まずメンバーに向かって「お客様に何を提供したいのか」「この仕事を通して何を実現したいのか」を問うことから始めました。

 すると、その問いが意味することに気づいた人がハブとなり動いていくと、どんどん周りの人たちにも化学反応の連鎖が起きるようになりました。あるタイミングでスレッショルド(基準)を超え、組織の空気がガラリと変わったことを実感しました。

 他にも資料や会議に関することなど日々の仕事の進め方を変えたほか、サイロ化した組織を崩し、私直下の新しい価値を生み出すための組織を作りました。

ペルソナは作らない。「お客様の心を動かす」ことにフォーカス

長:一人ひとりのメンバーのモチベーションが変化し、最終的には組織全体の雰囲気まで変わっていった様子がよくわかります。「お客様を真ん中に」と言語化して、組織全体で顧客起点のマーケティングを進められたのですね。具体的にどのようなマーケティングを行ってきたのでしょうか。

 M-Force株式会社 代表取締役 ⻑ 祐氏
M-Force株式会社 代表取締役 ⻑ 祐氏

松山:「お客様の心を動かすこと“だけ”に集中する」というマーケティング方針を出しました。

 お客様は暇ではありません。加えてほとんどのお客様は、ビールのことだけを考えているわけではありません。社員にとっては大きな違いでも、お客様にとってはそうではないことは数多くあります。このような中で競合と差を作ることに集中しても、お客様のためにはならないのではないかと思っています。

長:自社の従来商品にどれだけ変化を加えたとしても、競合が選ばれるのでは意味がないですものね。お客様は、数あるブランドの中から選んで購入くださるわけですから、「心を動かす」ことは重要なポイントだと思います。

松山:では、一体どうすればよいか。そこで考えたのが、お客様が理屈抜きで直感的に思わずぐっと食いついてしまう、「心が動く商品」を届けることでした。

 ブランドマネージャー制度を導入し、お客様がどのようなときに心が動くのかを掘り下げないブランドには、マーケティング投資をしないことを決めました。

長:お客様の心が動くための、顧客理解はどう進めているのでしょうか。「ペルソナを作って顧客理解を深めても、よい戦略やアイデアが出てこない」と課題を持たれている企業は少なくないと感じます。

松山:誤解を恐れずに言うと、ペルソナは作りません。あくまで架空の平均点となる人物だからです。そうではなく、生身の人間を見ることが大切だと考えています。自分の周りにいる人でも構いません。その人と温度感を持ったコミュニケーションを取りながら「なぜその商品を購入したいと思ったか」などを聞いていくことが顧客理解のプロセスであると思います。

 聞いていく中からリアリティーのあるインサイトを導くべく、壁打ちのような形で試行錯誤しながら仮説を立て、解像度を上げていくプロセスを踏みます。

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この記事の著者

⻑ 祐(チョウ タスク)

 東京大学大学院卒業後、P&G入社。ジレット、ジョイ、SK-II、BRAUNなど多岐に渡るブランドマネジメントを行い、P&Gジャパン執行役員に就任。2019年にM-Force株式会社代表取締役に就任し、顧客起点マーケティング「9segs®」の運用ツール「9segs®analyzer」の開発・導入・運用支援を行う。

https://mforce.jp/
https://markezine.jp/article/detail/34425

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

和泉 ゆかり(イズミ ユカリ)

 IT企業にてWebマーケティング・人事業務に従事した後、独立。現在はビジネスパーソン向けの媒体で、ライティング・編集を手がける。得意領域は、テクノロジーや広告、働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/05/23 09:40 https://markezine.jp/article/detail/44954

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