ベキ法則とはどのような分布だろうか?
「第一に、ベキ法則の分布にはピークが現れない。そしてべき法則の曲線はなめらかに減少する。これは、小さな度数を持つたくさんの事象と、大きな度数を持つ少数の事象とが共存していることを意味している(本文より)」
先ほどの身長の例で言えば、身長3000メートルや1センチの男性が、(少数ではあるが)存在するような状態を指すのがベキ法則だ(図1)。言い換えれば、小さな事象が無数に存在することではなく、無数の小さな事象と、ごく少数の大きな事象が共存することに特徴がある、ということだ。
しかもベキ法則は、いわゆる“スケールフリー”の法則だ。つまり、正規分布とは違って、圧倒的多数がまんなかの平均に近いところに集まっているといった状態は、どこにも見られない。よって、ベキ法則の式を対数変換すると、直線になるのだ(図2)。つまり、身長3000メートルや1センチの男性と、少数のとその他大勢という関係は、どこまでいっても同じように繰り返し繰り返し現れてくるのである。上にはさらにその上がいて、下にはさらにその下がいる、といった関係はどこまでいっても終わることがない。これがベキ法則の基本的な考え方だ。つまるところ、ベキ法則は、「活動の大半は一握りの事象によって遂行される」という現象を数学的に表したものなのだ。
無秩序から秩序への相転移
「確率に支配されている系には、ベキ法則はまず現れない。物理学では、ベキ法則が現れるのは、無秩序から秩序への相転移が起こっている場合であることが知られている」
バラバシらのグループが研究を行うまで、ウェブページの世界はランダムにリンクされていると予想されていた(少数のショートカットを持つ、ランダムなネットワーク)。しかし、実際にロボットプログラムを使って行われた実験で、wwwはベキ法則に従うことが発見された。
釣り鐘型の分布は、一定の大きさを定めることができる。一方で、ベキ法則にしたがう分布では、大きさを定めることができない。このことから、バラバシらはこうしたネットワークを“スケールフリーネットワーク”と命名した。すなわち、尺のないネットワークである。こうした発見がなされたのは1999年。つい最近のことである。この発見を皮切りに、概念上の重要なネットワークは、たいていスケールフリーネットワークであることが明らかになっていく。
現実社会とwwwの類似性は、直感的に語られてきたが、このバラバシらの発見により数学的な裏付けのあるものとして捉えられるようになった。
