店頭やECサイトがメディアとして独自の収益モデルを生み出す
さらに今年のad:tech tokyoで最も強く印象に残ったのが、リテール(店頭)とEC(オンライン)の“売り場“でのメディア化だ。店頭はID-POSや来店計測と結びつき始めフルファネルでの運用が始まっている。ECはサイト内の接客・運用でLTVに直結する効果が期待できる。筆者はこの二つを、従来の媒体区分を越えた“リテール(EC)メディア”として捉えている。
ここにOwned主導の運用と、AIを相棒にした高速なPDCAが重なるとき、企業は今までの「広告を買う」マーケティング活動から「顧客のフルファネルを高速で編成する」ことへ、競争の土俵を移せるはずだ。この記事の後半では、特にこの二つの新メディア、すなわち「店頭のリテールメディア」と「ECサイト内のECメディア」に焦点を絞り、実務で何を始め、何をやめるべきかを考えて行きたい。
各社の先端ECサイト活用モデル
私の記憶に残ったセッションの一つが「自社ECは生き残れるのか?──直販モデルの進化とこれから」だった。電通 EC事業コンサルティング部 河合友大氏をモデレータとして、ファンケル グループIT本部 情報システム部 部長 長谷川敬晃氏、花王グループのエキップ DX推進部 部長 鳥橋葉子氏、ZENB JAPAN マーケティング&ダイレクトグループ 吉川賢治氏が登壇したセッションであった。
各社とも多くの施策を投入して自社ECを着実に進化させている模様が見てとれた。
「1997年からECで自動販売機的な販売中心の立ち位置で進めてきましたが、定期購入が始まると自分の注文状況やポイント等が見える可視化サイトへと進化してきました。コロナ禍でEC化率が増えたため、EC内オウンドメディアへと進化して、他社との差別化の意味も含めコンテンツもお金をかけて投資しています。」(ファンケル 長谷川氏)
「6~7年前より自社EC、プラットフォーム、リテールと販路を広げてきました。プラットフォームは新規顧客のブランド体験の場として考えており、自社ECはZENBのある生活提案を通じてクロスセル・アップセルを仕掛けています。」(ZENB JAPAN 吉川氏)
「売り上げの比率は、おおよそ店舗とデジタルで7対3で、多くが自社ECです。カスタマージャーニーの中で顧客体験を形作る場として運用しています。顧客IDの名寄せで各種施策の検証をおこない効果を図っています。AIエージェント時代は構造化された一次情報の供給・連携も重視しています。」(エキップ 鳥橋氏)
各社は独自かつ有効な施策を通じてECサイト作りをしているが、不思議な共通点があった。それは同じ販売チャネルではあるが、自社ECサイトといわゆるAmazonのようなプラットフォームのサイトとはユーザーの重なりが少ないということであった。何と概ね1~6%という少なさである。やはりここは大きく役割が違うと言わざるを得ないが機会が、あればその理由も深掘りしてみたい。
