フットワーク軽く人とつながり、深い知識を得る
野田:人とのつながり方も軽やかです。SNSやネット上にない情報が欲しいとき、距離や肩書に関係なく、知らない人に直接メールやDMをしたことがあると約3人に1人が回答しています。

「DMが解放されている・メールアドレスが記載されている=連絡してもOK」と考えているようです。今の10代はSNSで知らない相手に「これはどこで買えますか?」と聞いて、教えてもらうといった小さな成功体験を重ねています。そのため、つながることにためらいがないのでしょう。実際に約8割がSNSやネットで誰とでもつながれると感じている調査結果が出ています。
また、10代の8割がネットの情報には限りがあり、一面的な情報でしかないと考えています。さらに、オンラインの情報は誰もがアクセスできるものです。ある種、知っていて当然のことです。さらに先の深い知識を得るためには、どうするか?を考えると、知識がある人に直接たずねるという行動になるのかもしれません。
実は先日、当研究所にも高校生から「メディアについて知りたい」とメールをいただきました。フットワークの軽さを改めて認識しましたね。
――興味を持った情報へアクセスすることと深く知りたい欲求を満たすこと、両方のハードルが低くなっているということですね。
山の頂を目指すのではなく、自分の山を作る
――ここまでは情報の取得にフォーカスしましたが、情報の発信についても教えてください。
野田:アナログが主流の時代は、たとえばクラスで1番を取れるような「少し人より得意なこと」があれば、良い意味で勘違いができました。しかし今はSNSを覗けば、自分より上がいくらでもいることがわかります。自分のレベルがすぐに客観視でき、勘違いをしにくい面があるでしょう。
――自分を相対的に評価することが容易になっているのですね。そこから10代の発信をするようになるのはどういった理由からなのでしょうか?
野田:彼らが動画やアート作品をSNSで発信する背景には、自分の能力を試し、縁をつなげて仲間を得たいという気持ちがあります。以前の10代は「一番高い山」のてっぺんを目指して競争し、そこに自分の旗をあげることを目標とするケースが多かったです。しかし現代は「今の興味」をもとに自分の山を作り、そこで仲間を持つことを目的とすることが多いです。
たとえば、インタビューをした中学3年生の子は、中学入学からずっとゲーム実況の配信をしていて、同時接続で100名が視聴するまでになっていましたが、受験を理由にスパっとやめてしまいました。「高校に入ったときにまだ興味が続いていたらやるけど、一旦やめます」と気軽な様子でした。
1つを研ぎ澄ますことやキャリアを積み上げることにこだわりがなく、そのときの興味で縦横無尽に広げている感覚です。また0からスタートしてもすぐにできそうな感覚があるのかもしれませんね。
――非常に柔軟ですね。メディア環境研究所では、このように自由にメディアを活用する10代を「イノベーターティーン」と表現しています。イノベーターと聞くと上位数%の先端層だけが、今うかがったような傾向を見せているようにも感じます。同世代間のギャップはどのくらいあるのでしょうか?
野田:情報リテラシーに関しては、同年代間での大きなギャップは見られません。情報の発信については、実際に発信したことがある割合は約3人に1人です。しかし、6割が情報の発信に興味を持っています。

一方で、今の10代はリテラシーが高いからこそ、上の世代に比べてオンラインでの振る舞いに対して繊細になっている部分があります。TikTokのダンス動画などが人気なのは、気軽でありながら決まった型があるので炎上リスクも少なく、発信の障壁が低いからでしょう。発信できる子とできない子のギャップを埋める1つのツールになっているのだと思います。
