今は「雑誌のどのページを読んでいるか」までわかる
MarkeZine編集部 吉永(以下、MZ):マーケティング入門連載の第6回の最後で、「マーケターには顧客の気持ちを洞察する力が欠かせない」と伺いました。今回は、その上で具体的にどのように顧客理解を進めていけばいいかを掘り下げていきます。
顧客理解にあたっては、今やデジタルマーケティングによるデータの活用が欠かせない、というのが一般的な考えかと思います。西口さんは「N1分析」として、一人に対する分析の重要性を説かれていますよね。定量的なデータ分析とN1分析、それぞれをどう捉え、使えばいいのでしょうか?
西口:おっしゃる通り、データは現代のマーケティングには欠かせないものだと思います。ただ、一口にデータと言っても、それが指し示すものは様々です。大別すると「誰もが客観的にわかる数字で表せるもの」と「数字には置き換えられないが共有できる情報」の2つがあります。
MZ:数字で表せるものか、もっと広義に“情報”という意味合いか、ということですね。
西口:前者の数字で表せるものとしては、リアル店舗のPOSデータなどは以前からありましたが、インターネットが一般化したことで取得できるデータの種類も量も飛躍的に増大しました。
かつては、新聞や雑誌でどの記事に注目したか、どこにマーカーを引いたかといった顧客の行動は、隣でモニタリングしない限り捕捉できませんでした。とはいえ隣で見られているとどうしても意識しますから、リアルなデータとはいえませんよね。それが今や、閲覧数や登録数、読了率などの数字で顧客行動を把握できます。
デジマで使えるデータは「行動データ」のみ
西口:ECなら購買データだけでなく、お気に入り登録や買い物かごに入れたが買わなかった、といった細かい部分まで追えます。アプリがどう使われているか、あるいはGPSの位置情報を使って顧客がリアル空間でどう動いているか、なども取得できます。さらにIoTとセンサリング技術の進化によって、ありとあらゆる場所にセンサーが入り込み、これまで見えなかったことが可視化されてきています。
こうしたデータをもとに様々な分析ができますし、デジタルマーケティングで活用することも可能です。ポイントは、これらはすべて「行動データ」である、つまり「いつどこで誰が何をした」というデータなのです。
MZ:生活者の属性ではなく、行動を表すデータということですね。
西口:行動データは「5W1H」のうち、When/Where/Who/Whatの4つをカバーしていますが、「Why(なぜそうしたのか)」はいまだにデータ化されていません。それに気づかず、行動データだけを頼りにビジネスを進めてしまう、データ至上主義ともいえる状況には注意が必要です。
Whyは、なぜ買ったのか、なぜ買い続けているのか、なぜ自社商品ではなく他社商品を買っているのか……といった「心理」です。
MZ:確かに、心理に関してはアンケートなどで聞いていくしかないですよね。それに、数字にもできなさそうです。