実演!N1インタビューは難しくない
MZ:そうなのですね。ただ、その人自身が「これが理由」とわかっていないことを掘り下げるのは、やはり難しいのでは?
西口:慣れは必要ですが、N1インタビューはそう難しくはないですよ。それでは今から、実際に質問していきましょう。
――吉永さんはそもそもなぜ、出版社に入りたいと思ったのですか?
コンテンツ作りに興味があったんです。
――なぜ、コンテンツ作りに興味を持ったのでしょう?
学生時代にコロナ禍に突入し、オンラインでできるアルバイトとして編集アシスタントの仕事をしていました。やってみると、おもしろくて。
――なるほど。何がきっかけで、そのバイトを見つけたんですか?
前から読んでいたスポーツ雑誌のオンラインコミュニティに入って、同じ読者や編集部とのやり取りを楽しんでいたら、編集部の方が声をかけてくれたんです。私がスポーツに関して少しブログを書いていたので、それを見てくださったみたいです。
――そうなんですね! ブログはいつから、どうして書き始めたんでしょう?
コロナ禍に入ったばかりの頃、ちょっと時間ができたタイミングで。一応、大学でスポーツの研究をしていたので、好きなスポーツのことを自分でかみ砕いて文章にしたいなと。論文とは違う形でコンテンツにしてみたいという動機がありました。
――そのブログが、編集部さんの目に留まって、どうでしたか?
「おもしろかった」と言ってもらえて、嬉しかったですね。
西口:ありがとうございます。今この短い対話でも、私にとっては気づきがありました。
編集者の方は本を読むのが好きだから出版社に来たというイメージがありましたが、その世界に入るきっかけとして、自分で書いて発信する体験や評価される体験もあるんだな、と。また、文学部の方が中心かと思いきや、スポーツの研究をされていたのは意外でした。そして、「おもしろかった」と他の人から自分の文章を褒められた際の感動が、大きなきっかけになっていそうです。
現状ではお一人に聞いたので「N=1」ですが、今度は「書く体験について掘り下げる」前提でまた別の方に聞くと、共通点や発見がありそうです。書くことが原体験になっている人が複数いたら、採用活動で書くことを切り口にするとか、積極的に書いている人が集うコミュニティでリクルーティングするなど、アイデアが生まれます。
心理まで捉えると、顧客の次の行動が予測しやすくなる
MZ:今のが、N1インタビューなんですね! 簡易とはいえ、このような感じならできそうな気がしました。特別なスキルが要るというより、相手の一つひとつの回答をよく聞いて、丁寧に対話していくことが大事なんですね。
西口:その通りです。家族や友人に聞いたり、同僚同士で試したりすると慣れることができます。就職などには本人も気づいていない、様々な心理的要因が過去から積み上がっています。その原点は、誰かへの憧れや過去に夢中になったドラマ、自分のコンプレックスという場合もあります。聞かれるうちに、本人も「そうかもしれない」と気づくことがあったりします。
逆に、日用消費財の購買だと判断がライトな分、深掘りしづらいかもしれませんが、いずれにしても必ず何らかの心理的要因や心理変化があって購買行動につながっています。その人が意識している回答だけで判断するか、それともカスタマージャーニーを作成できるくらい掘り下げて心理を読み解けるかが、マーケティングにおける圧倒的な差につながっていきます。
また、行動と心理を一つずつ紐づけていくと、次にその人がどういう行動をするか予測が立てやすくなります。
MZ:カスタマージャーニーの作成や、そこからの未来予測に、デジタルで取得できるデータは活かせないのでしょうか?
西口:いえ、起こった事象を見ていくだけでもある程度は予測できます。取得できるデータの種類と量が増大していることで、その精度は高くなっているともいえます。
ですが、行動データだけだと予測が当たってもその理由がわからず、予測がはずれた時もやはりわかりません。心理的な要因をつかめていれば、予測が当たったりはずれたりした後の分析ができるのです。