※本記事は、2024年5月刊行の『MarkeZine』(雑誌)101号に掲載したものです
「リテールメディア」とは店内メディアにあらず
2024年2月、WalmartがコネクテッドTVメーカーである全米大手「VIZIO」を約3,400億円(23億ドル)で買収すると発表した。
戦略として新しいのは、リテーラーのWalmartが自社のコネクテッド・デバイスを家庭のリビング(お茶の間)に持つという点だ。消費者はWalmartの激安価格で買ったスマートTVの画面を通じて広告される商品を直接購入できるようになる。リテールメディアの概念が「店内に閉じたメディア」を超え、TV領域までも飲み込み、「家庭内ショッパブルメディア」へと移行している。
このWalmartのVIZIO買収は、たとえると、Apple社がiPhoneで展開してきたデバイス・ビジネスと同じレベルのインパクトを秘める。WalmartとAmazonが提唱する概念「エンドレスアイル(陳列棚の無限拡大)」が、いよいよ本格化してきた。
当初、エンドレスアイルとは、物理的に限られた「実店舗の棚」がオンライン化により新たな棚(自社ECサイト)として拡張していくことを示す概念だった。今回の買収は、そのさらに先をゆき、実店舗の棚が「自社の外」へ拡張していく転機として紹介しよう。
スマートTVがリテールメディアとなる仕組み
VIZIOは「SmartCast」の広告付き番組チャンネル(無料)の視聴アカウントを米国で約1,850万件保有している。Walmartはこのアカウントを、1世帯あたり約2万円で買収した勘定だ。
受像機側の「ACR(AutoContentRecognition:コンテンツ自動認識)」という技術がある。SmartCastを通じて、各家庭のVIZIO受像機で何が見られているのか(Xboxのゲームをしているのか、どのテレビ番組のどのシーンを見ているかなど)を自動的に読み取る技術がACRだ。ACRを活用すると、VIZIO画面上で閲覧されたコンテンツを、オプトインのID(VIZIO購入者の9割以上が申し込む)に紐づけられた状態で把握し、パーソナライズされた広告配信につなげることが可能になる。
たとえば、VIZIO機をスイッチオンすると、SmartCastは登録した地域のWalmart最寄り店舗の「今日のお買い得品」をチラシのごとく案内してくれる。もちろん、「Walmart+」のメンバーアカウント(Amazonプライムのようなサブスクサービス)と連携させ、購買履歴と宅配機能を連動させることも可能だ。
その上にACR経由でTV番組に登場する商品の情報を家庭IDでつながるスマホにも送ることができるなら、スマートTV画面側でのサイド・バナー広告の露出は標準とし、「(スマホでTVに映る)QRコードをスキャンさせる」という手法すらが、既に古く手間に感じる。