ファーストパーティデータを確保する手段、合従連衡も視野に
有園:これはCookieと同じくらい機能すると思いますか。
杉原:思いません。プライバシー保護を優先するのなら、他のものを犠牲にする必要があります。Cookieと同じようなデータ収集は難しいでしょう。
有園:例えば、あるサイトに訪れた人全体をターゲティングすることはできますが、20代男性に絞り込むことはできなくなっていく。サードパーティCookieを使うと、行動履歴や他のサイトの登録情報から個人を推定できますが、そういう情報がなくなるということですね。
杉原:プラットフォーマーが形成するウォールドガーデンの中でデータ取得はできますが、オープンインターネットから個人の属性を推定することは難しくなります。プライバシーサンドボックスはまだ仕様が固まっていませんが、現在公表されている仕様を見る限り、今までできていたことがこんなにもできなくなるのか、という印象です。
有園:そうなると、やはりウォールドガーデン、つまりファーストパーティデータを持っているプラットフォーマーが盤石です。それを前提とすると、企業はどのように対応すればいいでしょうか。
杉原:広告主、パブリッシャーともに、ファーストパーティデータを蓄積し、活用することがより一層重要になると思います。
広告主企業は、これまで使っていたデータを得られなくなり、オーディエンス像がぶれてしまいます。顧客を理解するために、ファーストパーティデータを確保して分析する必要があります。自社でファーストパーティデータを持てなくても、プラットフォーマーやリテールメディアなど、他社が持っているデータに頼ることも選択肢の一つです。特にリテールメディアの台頭によって、小売事業者がデータを保有し始めています。そこと連携することも有効だと思います。
ファーストパーティデータ時代にパブリッシャーがすべきこと
有園:パブリッシャーはどうでしょうか。
杉原:自社メディアで広告を出してもらうために、ターゲティングの精度を高める必要がありますが、最も手っ取り早いのはログインユーザーを有すること。読者がたくさんいれば、プラットフォーマーと同じようにデータを得られます。
現状では、ログインユーザーがいないパブリッシャーも多いですよね。会員制度を作ったり、サブスクリプションを始めたりするなど、データを確保する必要があります。パブリッシャーと広告主のメールアドレスデータをマッチングさせてターゲティングするためにも、パブリッシャー側にもIDが必要です。
ただ、サブスクやログインの仕組みを作るだけでユーザーが集まるわけではありません。重要なのは「交換価値」です。適切な交換価値を提示しないと、ユーザーは個人情報を簡単には提供してくれません。それは金銭的な価値だったり、クオリティの高い記事だったりとさまざまですが、自社の交換価値が何なのか、厳密に考える必要があります。
有園:ログインユーザーをいかに獲得するか。ファーストパーティデータの収集にはコストも必要になりますね。
杉原:一方で、見落とされがちなのがマッチング率です。IDデータがあっても、全てマッチングできるわけではなく、30~50%程度にとどまります。つまり、IDの数が少ないと、マーケティングに影響を与えられるボリュームになりません。ファーストパーティデータには“規模感”が必要なのです。
2023年にはファミリーマートと、「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスなどがリテールメディアで協業すると発表しました。データ連携によって、3000万規模の広告IDを保有することになります。KDDIによるローソンへのTOB(株式公開買い付け)も、リテールのデータをKDDIのデータ経済圏に加えることでバリューを高めることにつながります。
有園:合従連衡によってファーストパーティデータの規模感を出す動きは増えていきそうですね。本日はありがとうございました。
