SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

新着記事一覧を見る

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

有園が訊く!

不透明な時代、ネット広告の「不都合な真実」にどう向き合うか【杉原剛×有園雄一対談】


詐欺広告にMFA、不都合な真実に向き合うためには規制が必須か

有園:そうなると、公的機関による法規制でしか解決できないと思います。テレビであれば、広告に関する一定のルールが定められています。テレビ局は公的に免許を与えられている事業者なので、違反はできません。

杉原:インターネットの問題は、広告を取り締まる人が誰もいないことですが、放送法で守られているテレビと単純比較ができないのが難しいところですね。

有園:インターネットの歴史、プラットフォーマーの歴史は、まず、「ベストエフォート」というコンセプトがあって、ネットの通信速度なども接続する場所や時間によって変動します。あくまでも、ベストエフォートで最適な速度を提供するということが許されています。

 同様に、プラットフォーマーも、歴史的に、ベストエフォートが許されてきました。テレビの場合は自社で番組コンテンツを制作・編集・編成していますが、プラットフォーマーの場合は、UGCとしてユーザー側がコンテンツを作ってアップロードするのが一般的です。

 たとえ話でよくありますが、自動車に乗っている人がスピード違反をした場合に、それを取り締まるのは警察の責任で、自動車メーカーではありません。ネットは、すべての人が使うことができる場所として提供されているため、一般の違法コンテンツも含めて、法律を順守して使うべきなのはユーザーや広告主であり、その場所を提供するプラットフォーマーがどこまで責任を負うべきかが明確になっていないという、歴史的な背景があると思っています。

 ただ、さすがに、詐欺広告の問題も深刻になっていますし、「この手法で稼ぐのはダメ」だと法的に規制するしかない、という論調になり、先日も「改正プロバイダ責任制限法」(参照)が参議院を通過したようですね。様々な見解があると思いますが、私としては、良い方向に向かっているかと思っています。

杉原:概ね同意です。インターネット広告の仕組みはこの二十数年で非常に複雑になり、業界の中でもわかっている人があまりいません。また、2021年に施行された「デジタルプラットフォーム取引透明化法」のモニタリング会合の資料を見てみると、プラットフォーム事業者から提供される情報が圧倒的に少なく、各社で情報量にも差があります。このような状況で、業界の自主規制、共同規制に委ねるのは無理があります。公的機関が規制しないとコントロールできない段階に来ています。

有園:このまま放置していたら、悪質な手法がさらに出てくるでしょう。MFAや詐欺広告に加え、ボットによるアクセスでインプレッションを発生させる行為も大きな問題です。

杉原:Facebookに掲載されている詐欺広告の件では、自民党が対策を始めているのは良いことですね。ようやく、といったところです。

 MFAの問題ではあらゆるステークホルダーに改善すべき点がありますが、事態を最も動かすのは消費者の声です。私が最近よく言っているのは「パブリックコメントをきちんと提出しましょう」。インターネットの問題については総務省が中心となって募集しています。“自分ごと”と考えて意見するべきです。

Regional Vice President, Microsoft Advertising Japan 有園雄一氏
Regional Vice President, Microsoft Advertising Japan 有園雄一氏

「Privacy Sandbox」は代替手段になるのか?

有園:この対談のもう一つのテーマは、サードパーティCookieの廃止についてです。Googleが代替ソリューションとして提供しようとしている「Privacy Sandbox(プライバシーサンドボックス)」も話題になっています。また、Microsoftも同様にAd Selection API を出してきました。これは何のための技術なのですか。

杉原:サードパーティCookieはもともと、広告のために作られたものではありません。アドテクノロジーの進化によって広告への活用が進み、規制されないまま使われてきました。Cookieに個人情報をひもづけることが技術的に可能となり、個人の趣味嗜好、サイトの閲覧履歴などがわかってしまう。それが問題となり、規制の動きが出てきました。

 まずはAppleが動き、iOSではサードパーティCookieを使えないようにしました。Googleも、ChromeでサードパーティCookieのサポートを廃止する方針です。廃止されると、リターゲティング、インタレストベースターゲティング、レポーティングが難しくなります。それを代替するための技術的な取り組みがプライバシーサンドボックスです。

有園:さまざまなAPIで構成されるようですね。広告に関するAPIにはどのようなものがありますか。

杉原:プライバシーサンドボックスAPIの中で、広告に特に関係する主要なものは3つ。「Protected Audience API」がリターゲティングの代替、「Topics API」がインタレストベース広告の代替、「Attribution Reporting API」がレポーティングとアトリビューションの代替となります。

次のページ
ファーストパーティデータを確保する手段、合従連衡も視野に

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • note
有園が訊く!連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

有園 雄一(アリゾノ ユウイチ)

Regional Vice President, Microsoft Advertising Japan

早稲田大学政治経済学部卒。1995年、学部生時代に執筆した「貨幣の複数性」(卒業論文)が「現代思想」(青土社 1995年9月 貨幣とナショナリズム<特集>)で出版される。2004年、日本初のマス連動施策を考案。オーバーチュア株式会...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

加納 由希絵(カノウ ユキエ)

フリーランスのライター、校正者。

地方紙の経済記者、ビジネス系ニュースサイトの記者・編集者を経て独立。主な領域はビジネス系。特に関心があるのは地域ビジネス、まちづくりなど。著書に『奇跡は段ボールの中に ~岐阜・柳ケ瀬で生まれたゆるキャラ「やなな」の物語~』(中部経済新聞社×ZENSHIN)がある。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2024/06/07 08:56 https://markezine.jp/article/detail/45586

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング