「難病を啓発する」をコアに始まったプロジェクト
MarkeZine編集部(以下、MZ):中外製薬が2023年に行ったNMOSD(視神経脊髄炎スペクトラム障害)の啓発プロジェクト『Raising Awareness of NMOSD with yama』には、SNS上でも大きな反響がありました。まずは概要を伺えますか。
暮井:NMOSDは自己免疫疾患のひとつで、目や脊髄、脳などに様々な症状が出現する指定難病です。国内に約6,500人の患者さんがいます。弊社は患者さんにインタビューをする中、疾患の認知の少なさや他者からの症状の見えづらさなどから、多くの方が「疾患を周囲にどう伝えるか難しい」「決めつけや無関心に傷つく」といったコミュニケーションに関する悩みを抱えていることを把握しました。
それをインサイトと捉え、疾患の認知による患者さんの課題に対する理解、また疾患そのものの早期発見にもつなげる目的で啓発活動を行っています。
常世田:2022年に始まった当プロジェクトは「難病を啓発する」ことをコアに活動しています。前回は患者さんとその近しい方々に共感を生むことをテーマにしたショートムービーを制作しました。100万回近い再生数を記録し、医師の方々からも反響がありました。
常世田:今回のプロジェクトではさらにターゲットを広げ、「患者さんと直接の関わりのない方や社会そのもの」としました。単に病名の周知に留まらず、悩みに対するより深い理解や自分ごと化を促したいと考えたのです。
プロジェクトを参加型にすることで中長期スパンでの理解を深める
MZ:本プロジェクトの全体設計、実施の大まかな流れ、設計全体を通じて効果を最大化するために意識された点があれば教えてください。
常世田:そもそも難病啓発はセンシティブで、一般の方には遠いトピックです。まずは発信に耳を傾けやすくするために間口を広げること、「自分にも関係がある」と気づいてもらう必要があります。そのため、「音楽」と「参加型」を掛け合わせた座組みでプロジェクトを進めました。
森:NMOSDの患者さんが悩む「他者とのコミュニケーションの課題」は、広い意味では一般の方々にも共通してあるものです。また、音楽という形態は直感的で、現在“コミュニケーションの主戦場”となっているSNSなどの媒体を通しても届きやすいメディアです。定量的な部分でもインパクトを持って届けられます。
今回は患者さんだけではなく一般の方々のエピソードも募集し、yamaさんにはそれらをインスピレーションの元として楽曲を制作いただくこととなりました。参加型のプロジェクトにすることで初期から人を巻き込み、中長期的に参加者を増やしていったのです。
森:具体的には2023年5月末にyamaさんのYouTubeライブでプロジェクトへの参加を発表してもらい、エピソードの提供を呼びかけました。「わかってほしい」という思いに共感が集まり、170件ほどの提供をいただきました。
その後はYouTubeやSNSのショート動画などでyamaさんの楽曲の制作プロセスを随時公開していきました。同年10月中旬、yamaさんのYouTubeチャンネルでご本人出演の『パレットは透明』のMVがリリースされ、それと同じタイミングで患者さんのエピソードをベースにしたショートムービーを公開しています。
常世田:プロジェクトを追いかけてくださると、音楽がローンチされるのと同時に、難病の患者さんのお話が自分のことのように感じられる設計になっています。楽曲の歌詞からも元々は「わかってもらいたい」気持ちを持っていた人が「わかってあげたい」気持ちへとグラデーション状に変化していく構造です。