テレビは中長期的な検証が不可欠
ここからは、効果検証の観点からテレビCMが持つ効果を細分化して解説していきます。
図表1は、テレビCMを3時点で打ったときのCV効果を時系列で示したもので、濃い緑の山がCVに対する直接的な効果、薄い緑のほうが間接的な波及効果です。

細かく見ていくと、テレビCMを打った時点でCVがぐっと上がった後、その効果は残像を残すように落ちていっているのがわかると思います。これがテレビCMによる「残存効果」です。また、1回目、2回目、3回目と回数を重ねるごとに一番下にある「ブランド蓄積効果」が根雪のように積もっていっていることもわかります。これはテレビCMを打てば打つほど蓄積されていく効果で、CMをストップすると雪が溶けるようにだんだんと蓄積分がなくなっていきます。
これらの残存効果やブランド蓄積効果は、テレビCMだけにあるわけではありません。ただ、特に蓄積効果はテレビCMが突出して大きく出ます。残存効果に関しても同様で、ディスプレイ広告、動画広告、チラシ、OOHの平均値と比較しても大きな差があります。
図表1から得られる示唆は、中長期的なスパンで効果検証を行うことの重要性です。テレビCMは短期的な効果に加え、プラス65〜70%のCV効果を中長期的に発揮していくことになります。この中長期的な効果を見ずにテレビCMとデジタルで予算配分をすると、想像するに、多くの広告主がテレビCMの予算を大きく削る判断をされるでしょう。結果、中長期的に売上はだんだん下がってしまうと思われます。あるいは、「運用型テレビCM」という言葉のもと、瞬間的に得られる一部の効果のみを追求してしまう恐れもあります。
テレビCMに限った話ではありませんが、マーケティングの投資判断をクリティカルに誤ってしまう可能性がありますから、広告の効果検証は中長期的なスパンでも丁寧に行うべきです。
また、図表1のような検証を行うのはたしかに簡単ではありませんが、可能な限り頻度高く検証を続けることの重要性も強調しておきたいと思います。時間が経つと、競合は打ち方を変えてきますし、マーケットもカスタマーも変わります。残存効果や蓄積効果が広告クリエイティブによって大きく変わることも想像できるでしょう。やはり、不変の解はありません。判断を誤らないためにも、定期的に検証と分析をしていくことが大切だと考えます。
テレビだけを見ず統合的な分析を
近年、マーケティング業界ではMMMへの注目が高まっています。1950年代に生まれ、グローバルでは多くの企業様で定着している分析手法です。ですが、マーケティングの選択肢がここまで増えた今、もはや個別最適できる域は超えており、すべてのメディアを統合して検証をすることが非常に重要になっています。
よって、テレビマーケティングの効果検証においても、テレビだけを見ると危険です。中長期的かつ統合的に、売上に対する貢献を検証できる環境を整えていくことをおすすめしたいと思います。

株式会社サイカ代表 取締役社長 CEO
平尾喜昭(ひらお・よしあき)氏
慶應義塾大学総合政策学部卒業。父親の倒産体験から「世の中にあるどうしようもない悲しみを無くしたい」と強く思うようになる。統計分析に経営支援の可能性を見出し、2012年にサイカを創業。統計学と経済学をベースに、これまで数多くの大手クライアントにてマーケティング精度向上のコンサルティングを行ってきた。