電車内サイネージ誕生から20余年、リポジショニングの背景
――まずは、TRAIN TVの概要を教えていただけますか。
佐藤:TRAIN TV は2024年4月1日よりスタートした、首都圏JR主要10路線とゆりかもめの車両サイネージ約5万面を対象とした新たな番組配信プラットフォームです。これまで広告中心だったサイネージを「電車の中のテレビ局」とリブランディングし、「タイパ」「サイレント」をキーワードに、テレビクオリティのオリジナル動画コンテンツを「今だけ ここだけ 電車だけ」の映像体験として提供しています。
――なぜサイネージをCM中心から番組中心に変化させたのですか?
佐藤:電車の中のサイネージ「トレインチャンネル」自体は2002年に誕生しました。当時は電車内で動画が流れていることの珍しさが価値になっていましたし、電車に乗る方に確実に接触できるという特徴を有していました。しかし、スマートフォン(以下、スマホ)が登場し、普及とともに動画コンテンツのリッチ化・通信の高速化が進む中で、乗客の目線はスマホに向くようになりました。
そして、トレインチャンネルのあり方を変え、メディア価値を上げることが課題として浮上したのです。そこで、強いコンテンツを放映することで乗客の目線を上げること、メディア価値を上げていくことにトライしていこうと考えています。
中里:コロナを経て、このメディアの役割を改めて見つめ直すことでイノベーションを起こそう、との想いから生まれたのがTRAIN TVです。メディアはコンテンツが主で、その合間に広告があるというのが本来のあり方。そうではない状態で成立してきたこれまでのOOHがむしろ例外だったと捉え、特に車内メディアにおいてはあるべき姿に向かうべき、と考えています。
「音の出せないメディア」の特性を生かしたコンテンツ作り
――では、TRAIN TVは広告主/乗客のどのような課題解決をし、便益を提供するのでしょうか?
中里:サイネージを見ていただけるお客様が増えれば、必然的により多くの方に広告が見られ、広告効果は高まっていくと考えられます。それは、広告主様にとって直接的なメリットになります。広告主様がメディアに期待するのはそういった「リーチ」に由来するものに加え、「コンテンツ」も大きいと考えています。テレビがまさにそうですが、魅力的な番組コンテンツの文脈の中で自社CMが流れることに価値を見出している広告主様は多いのです。
これまでOOHはコンテンツがなくても自然と目に入る、見てもらえる存在でした。しかし、スマホの普及によりその前提が電車内においては崩れたと思っています。そこで「コンテンツ」に投資することで乗客の注目を集めつつ、「このコンテンツが流れているから広告を出そう」「このコンテンツや番組と連動したCMを作ろう」と思っていただける広告主様を集めていきたい。そうした狙いがTRAIN TVにはあります。
――素朴な疑問ですが、電車内の動画は音声が出ません。その中で番組を楽しんでもらうというのは、難しさがあるかと思います。その点はどのようにお考えですか?
中里:無音が弱点であることは間違いありません。ただ電車は人を安心安全に目的地に運ぶことが第一ですから、車内の音声は案内に使う必要があります。
しかし、普段の生活を振り返ると、まさに移動中はスマホで音声をオフにした状態で動画を見るケースが多々あります。音声なしのコンテンツを楽しんでもらうことも、無理なことではないと思っています。むしろ音が出ないという制約条件を個性に変えていくことで、他では見られないオリジナル動画を生み出せるのではないかと考えています。
TRAIN TVでは、なるべくノンバーバルでもわかる番組作りにトライしています。また、バラエティのジャンルではヒカキンさんやチョコレートプラネットさんなど、顔の表情・表現が豊かな方をキャスティングしました。加えて、スマホと異なり、少し離れたモニターを見ていただくため、テロップは大きく、文字数も極力減らすことを意識しています。今後もサイレントならではの新しい表現にチャレンジしていきたいですね。