場所や機会によって異なる顧客課題
顧客を定義したら、いよいよ顧客理解を深めるステップに移る。田岡氏はクレイトン・クリステンセン氏のジョブ理論を応用しつつ、理解を深めるためのヒントとして「『あなたのブランドが解決する顧客の困りごとは何なのか』を考えることが必要」と強調。ここで重要になるのがWhenやWhere、そしてWhyである(図4)。

顧客は常に同じ課題を持っているわけではなく、場所や機会によって異なる課題を持っている。つまりWhenやWhereを定義しなければ、顧客を定義できたことにはならないのだという。
加えて、顧客が言語化できない課題、つまりボトルネック(=Why)を特定することも忘れないようにしたい。ボトルネックは「人」「手段」「情報」「カネ」のうちどれか、もしくは複数の不足が要因となって生じる。
「顧客のファクトから、顧客自身が言語化できない/気付かないボトルネックを発見することが重要です。これこそがまさに顧客理解の本質だと思います」(田岡氏)
ここまでの内容から、マーケティング戦略はWHOがすべての起点であり、顧客理解を深めるためには顧客自体そして顧客課題の定義を入念に行うことが重要だとわかる。
カテゴリは単価や継続率を決めるキー
WHOと同様WHATの定義も「曖昧になっている」と感じる人が多いのではないか。田岡氏はWHATとして「カテゴリ」「提供価値」「新価値提案」の3つを定義すべきと語る(図5)。

中でも田岡氏はカテゴリを重要視している。なぜなら、カテゴリは単価や継続率を決め、事業成長を実現するために最も重要な要素だと言われているからだ。
「X(カテゴリ)といえばY(ブランド)」を実現するためにはどうすれば良いか。第一に必要なのは、カテゴリを正しく定義することだという。「現時点で顧客にどのようなカテゴリで想起されているのか」「将来はどのカテゴリで想起されることが理想的なのか」そして「新規カテゴリを創造するべきなのか、既存カテゴリのまま戦うべきなのか」これらを考えることがポイントだと語る。カテゴリの定義と合わせて、そのカテゴリで想起集合に入ることが重要なのだ。
ここまでのステップを踏んだ結果「新規カテゴリをつくる」という決断に至る人がいるかもしれない。市場拡大が期待できる新規カテゴリとはどのようなものなのか。田岡氏はカテゴリを新たに生み出す際の重要要素として「新規性」「わかりやすさ」「社会性」「言いやすさ」「価値フィット」「競合優位・参入障壁」「信頼性」の7つを列挙(図6)。「これらの要素を意識しながら、新規カテゴリを構築していくことが大切」と説明する。

顧客そしてカテゴリが定まることで、競合が決まり、独自の提供価値も決まってくるだろう。
「『我々の強みは何だろう?』という問いから始めるケースもあると思います。ただし、カテゴリや競合が定義されていない以上、強みは見出せないものです。だからこそ、まずはWHOから考えて、そこから独自価値、独自性を展開していくことが大切なのです」(田岡氏)
田岡氏は、カテゴリと並んでWHATを構成するもう1つの要素「コンセプト」の設定方法についても言及。「結論から言うと、コンセプトはシンプルな構造にすべき。日々様々な広告や情報に触れている顧客に届くのは、複雑ではないシンプルなメッセージだ」と語る。
シンプルなコンセプトの作り方として、次の5つのモデルが紹介された。
価値の両立
今まで「両立しない」と思われていた2つの価値を両立させる提案
例:「高級で本格的」と「リーズナブル」を両立させた「俺のイタリアン」
価値の拡大
既存のセグメントやシーンでは「提供できない」と思われていた領域で価値を提供する提案
例:味の選択肢が少ないとされていた低アルコールジャンルで「味が選べる」という新たな価値を提案したサントリー「ほろよい」
価値の新要素
新しい価値の要素を定義し、既存の価値と掛け合わせる提案
例:「安価で簡単」「リッチなUX」という既存の価値に「アプリ連携」という第三の価値を掛け合わせたコマースプラットフォームの「Shopify」
価値の限定
幅広い顧客セグメントに向けたサービスが乱立する中、特定のセグメントのみにフォーカスした提案
例:幅広い顧客セグメントに向けたサービスが多い中「上場のためのクレジットカード」という特定のセグメントにフォーカスした「UPSIDER」
価値の普及
従来は一部の顧客セグメントしか享受できなかったサービスを広い顧客セグメントで提供可能にする提案
例:これまでは資金力のある一部の企業が活用していたテレビCMを民主化した運用型テレビCMサービスの「ノバセル」や「テレシー」