自社のターゲットに何を伝えたいか
──担当者はどのようなアクションをとれば良いのでしょうか?
デジタル広告を取り巻く環境やターゲティングの手法が変わりつつあり、これまでと同じKPIを用いることに無理が生じていることを、上層部の人に理解してもらう必要があります。目標数値が変わらなければ、広告主も伴走する広告代理店も疲弊してしまうため、ここは広告主が頑張って社内調整をするところだと思います。いきなり「CPAが高くなります」と伝えるのではなく「なぜ今の環境では、これまでと同等の基準を達成することが難しいのか」という背景から説明すると良いです。
──本誌では、ポストCookie時代の新たなターゲティング手法を複数取り上げます。そのうちの1つがデータクリーンルームです。
データクリーンルームが注目を集める現在の様子は、少し前にDMPが台頭した頃の風景とよく似ているように感じます。DMPに「プライベートDMP」と「パブリックDMP」の2種が存在するのと同様、データクリーンルームもMetaのようなプラットフォーマーが提供するものと、他社とのデータエクスチェンジを実現する環境の2種あるためです。バズワードとしてのデータクリーンルームに惑わされるのではなく、2種のうちどちらを指しているのか、整理をしてから議論を進めたほうが良いと思います。
またDMPがそうだったように、データクリーンルームも一部の企業にとっては無用の長物となる可能性が否めません。データクリーンルームの活用自体が目的とならないよう意識していただきたいです。
──ユーザーが閲覧するコンテンツにマッチした広告を配信するターゲティング手法も、改めて注目を集めています。
かつて私がアドテク企業に在籍していた頃にも、コンテクスチュアルターゲティングは存在していましたが、今は技術が進歩しているため、昔よりも高い精度でターゲティングができるようになっていますよね。たとえば以前「飛行機」や「旅」などの文脈でターゲティング配信していた航空会社の広告が、航空事故を報じるニュース面にも表示されてしまったために、炎上するケースがありました。現在はそのような配信を回避する技術が整ってきていることもあり、有効な手法だと感じます。
コンテクスチュアルターゲティングをうまく作用させるためには、広告主が自然なコンテキストの引き出しを増やす、つまり世の中に対する感度を高くする必要があると思います。選ぶソリューションより「自社のターゲットに何を伝えたいか」のほうが大事ですし、文脈に合ったクリエイティブも不可欠です。コンテンツを丁寧に作っている媒体をウォッチしながら、その面に最適なクリエイティブを配信するやり方が理想的だと思います。
──最近は気象データを用いたターゲティングも盛んです。
天気がダイレクトに影響する商材としない商材があり、しない商材のほうが圧倒的に多いはずです。影響しない商材を扱う企業が「天気と自社の商材をどう絡めれば、広告クリエイティブがおもしろくなるか」という視点を持つことは大事だと思います。
たとえば、人が飲料のホットとアイスを切り替える境目の気温は19度と言われています。19度を超えると過半数の人が冷たい飲み物を飲みたくなり、下回ると過半数の人がホットを飲みたくなる。このように、各社に関わりのある「指数」のようなものを見つけてナレッジとして貯めることができれば、クリエイティブを考える際のアイデアにもなりますよね。