ロイヤル顧客につながる新規顧客を増やしていく
MZ:そのままいったら、縮小する一方ですね。それで、どうされたんですか?
西口:大きく2つのことを同時に進める必要がありました。一つは、16%のロイヤル顧客を減らさず、もっと増やせるよう、喜ばれる提案をすること。もう一つは、新規顧客の獲得に費用をかけすぎていたのでそれを見直しながら、できるだけ1回きりで終わらない顧客に買っていただける提案を行うことです。
たとえば、ロクシタンはギフトの売り上げが大きいのですが、それだけだと一回購入で終わるため、かけた費用を加味すると利益は生まれません。しかしながら、どなたかのプレゼントのためにギフト商品を購入をする人に、ご自分用のスキンケアサンプルを差し上げると、スキンケアを次に自分用として買っていただけやすいとわかったので、それを推進し2回目購入を促すなどです。
新規顧客獲得と集客向けにギフトの最大化、そしてギフトの側に必ずスキンケア商品を陳列して、来店時時にギフトだけでなくスキンケアの紹介とお薦め、そしてサンプル使用促進の掛け合わせで、短期間で利益を改善することができました。
MZ:やみくもに新規顧客の獲得をしようとしてはいけないし、かといってロイヤル顧客だけに振ってもその数が増えないというわけですね。
西口:そうです。マーケター初心者の方は、業務上で利益まで俯瞰することは少ないかもしれませんが、短期と長期での「売り上げと利益と顧客構造(どのような顧客がどの程度いるのか)の関係」を頭に入れておくことは大事です。
価値を感じてもらえるプロダクトであれば、消費量の増加につながりますし、異なるプロダクトの同時購買や追加購買にもつながります。ですが「1回きり」で終わるのは、「便益と独自性がありそうだ」と思って購入したが使用後に価値を感じられなかったわけなので、その顧客が関連商品や関連サービスを買うこともないでしょう。
先の掛け算「売り上げ=顧客数×単価×頻度」はとてもシンプルですが、それぞれを数値で押さえているマーケターは少ない印象です。もちろん、メーカーや小売りなど厳密に顧客数を出せない業態もありますが、おおまかな増減を把握できていないと、今は何に注力すべきかがわかりません。
因数分解できていないと、注力点がわからない
MZ:「売り上げが下がっているからキャンペーンをする」といっても、新規顧客を増やすためなのか、単価の低下を食い止めるためなのかで、内容が変わってしまうのですね。
西口:はい。プロダクトの売り上げが伸びない状況を打破するために、新商品やバージョン違いの製品を出すことがありますが、短期で売り上げが上がってもリピート性が低く累計で利益性を下げてしまうような、中途半端な価値を量産する方向へ進むことが少なくありません。プロダクトの売り上げが伸びていないなら、次のようなことを考えます。
(1)プロダクトに価値を見出す潜在的な顧客に届けられていない
(2)届ける顧客が間違っている、または届けるべき顧客が明確になっていない
(3)そもそも便益や独自性が弱く、顧客が価値を見出すに至らない
西口:(1)は届け方、つまりHOWが間違っているので、潜在的な顧客に届く方法を見直す必要があります。(2)はWHOを正しくつかめていないという問題ですね。誰がそのプロダクトを買うのかがわからないと、どれだけプロダクトを工夫したり増やしたりしても、売り上げ増は難しいでしょう。仮に増えても、その要因がわからないので再現性がありません。(3)は言わずもがなですがWHATの問題なので、プロダクトの強化改善が必要です。
しっかり顧客理解ができていて「WHOとWHATの組み合わせ」がつかめていれば、(2)や(3)のようなことは起きません。売り上げを上げるために、ここでも最も重要なのは「誰が顧客なのか」を定義することです。その前提で、3つのうちどれが問題かをつかみ、適切な打ち手を検討していくとよいでしょう。
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