3.企業のバランス感覚が問われる「応援消費」
“他者のため”に行われる「応援消費」
応援消費とは、消費行動を通じて困っている企業や人を応援する行動のことを指します。以前は東日本大震災や新型コロナウイルスの蔓延で困っている飲食店・生産者に対して、旅行に行ったり、現地で食事をしたりといった被災者支援の文脈がほとんどでしたが、最近では「推し活経済圏」の拡大によって応援消費の形も多様化しています。
通常、消費行動は「自分のため」に行うものですが、応援消費は「他者のため」に行動するウェイトが大きく、「好きな企業・ブランドに生き残ってもらうため」に商品を買うという消費行動も生まれています。
なぜ今、こうした消費行動が広がっているのか。おそらく、モノがあふれるこの時代、消費者は「自分のため」のモノを買い切ってしまったのではないでしょうか。モノではもう満たされなくなり、買うための理由を探す中で、応援消費やコト消費などに意義を見出していったのではないかと考えられます。
寄付のような向社会的行動に対する心理的ハードルが下がってきていることも理由の一つでしょう。実際に日本では東日本大震災以降、寄付の平均金額が2倍以上に増加しています。日本人は寄付したことをあまり人に言わない傾向があるものの、感覚や意識は変化してきているのかもしれません。その点では、応援消費はあくまで「買い物」である分、寄付よりも理由付けがしやすく、積極性が生まれやすいと考えられます。
応援消費を使ったマーケティングは企業のバランス感覚が問われる
こうした消費者の変化を受け、企業側が応援消費を期待したマーケティングを仕掛けることも増えてきています。しかし、応援消費で売上を出そうとしていることが見え透いていたり、それが強すぎたりすると、炎上や批判の原因となってしまいます。そのため、企業がマーケティング手法として活用する際には、バランス感覚が非常に重要になってきます。
社会貢献や環境配慮を打ち出す「ソーシャルマーケティング」は応援消費を促す代表的なマーケティングの一つですが、実態がともなっていること、そして企業がその活動に取り組む思いや意図をしっかり消費者に伝えることが成功の秘訣と考えられます。

東京都立大学 経済経営学部 教授
水越 康介氏