AI時代のトレンドに乗り遅れるのは誰か?
では、「the user」とは何なのか? Generative AIの次を見据えたときに重要になる。Personal AIの必須要件だろう。それは、Googleのアドネットワークが得意とした膨大な量の3rd party cookie/dataとは異なる。ユーザーとの直接的な関係が基礎になる。つまり、1st partyの関係性が必須ということだ。
それは、「AIアシスタント」、あるいは「AIコンシェルジュ」と言ってもいい。折に触れて、シリコンバレーのエンジニアなどから耳にするコンセプトだ。シリコンバレーのエンジニアがいつか実現したいこと。そのひとつに、私の理解では、「Personal AI」「AIアシスタント」「AIコンシェルジュ」がある。
日本人的にわかりやすいのは「ドラえもん」だ。のび太くんのことをなんでも理解していて、のび太くんのためになんでも尽くしてくれるAIロボット、それが「ドラえもん」だろう。ときに相談相手としてアドバイスをし、ピンチのときにはジャイアンから守ってくれる。遊び相手にもなるし、なんといっても、必要なときに役に立つ道具をポケットからなんでも出してくれる。ここには当然、1st partyの関係性がある。
のび太くんを顧客に置き換えれば、顧客のことを理解して、必要なときに必要な助けをしてくれる、頼もしい役立つ存在。広告やマーケティングの観点からいえば、そんなブランドになれれば、とても理想的だろう。信頼され、役に立つブランド、ひとつの目指すべき姿だ。
かなり前のことだが、自動車メーカー本社のマーケティング担当者と話していたときに、こんな悩みをきいたことがある。「自社のクルマに実際に誰が乗っているのか、じつは、本社では把握してないんです」と。
つまり、系列の販売店、ディーラーに顧客データはあるけれども、そのデータは本社に共有してもらうことができない。たとえば、東京・三鷹にある販売店と東京・吉祥寺にある販売店は、商圏エリアが重なっているために同じ顧客を取り合うライバル関係にある。したがって、その大事なお客様のデータを本社であっても共有したがらないとのことだった。結果的に、その自動車メーカーのクルマに実際に乗っている人を本社ですら、すべて把握できていない、という状態に陥る。これは、統合的なCRMやCDPが構築できないという、日本のメーカーでよくある事例である。
このCRMやCDPの重要性は、AIの時代に、ますます大きくなっていく。そして、このままでは、つまり、3rd party cookie/dataを軸とした広告配信やマーケティングに依存していたら、AI時代のトレンドに乗り遅れてしまう。なぜなら、「Personal AI」「AIアシスタント」「AIコンシェルジュ」の時代の幕が開け始めたからだ。
たとえば、テスラは、一応、電気自動車メーカーだろう。ただ、そのクルマは、それ自体が端末になっている。自動運転者は、センサーによって位置情報を把握し、電波によってデータがサーバーとやりとりされている。顧客データだけではなく、リアルタイムに様々なデータをメーカーが取得できる可能性があるのは想像に難くないだろう。
自動車という端末にもIDが付与されているだろうし、クルマのオーナー(顧客)のIDもきちんと把握されて、必要なときに必要なサービスを届ける準備ができているはずだ。1st party dataを保持したCRM・CDPが当然、きちんと整備されている。走る「ドラえもん」になる可能性がある。